携帯やスマホ、パソコンから航空機まで、さまざまなところに使われているリチウムイオン二次電池。
リチウムイオン二次電池とはどういうものなのか、その原理、仕組みを簡単に説明してみます。
リチウムイオン二次電池とは
リチウムイオン二次電池は、リチウムという金属元素を利用した充電可能な二次電池です。
スマホやパソコンなど、現在のIT技術を陰で支えている功労者とも言える存在です。
リチウムイオン二次電池の電極反応の一般式
電池には、正極、負極、ふたつの電極があります。
負極で電子が発生して、正極では電子が吸収され、負極から正極に電子が移動することで、電流が流れるのです。
電子はマイナスの電荷を持っているので、正極、負極の反応では電荷を打ち消さなければなりません。
リチウムイオン二次電池では、その役割をプラスの電荷を持ったリチウムイオンが担います。
ですから、一般的な式で表すと、下のような反応が電極で起きているのです。
ALi ⇔ A+Li++e–
Liがリチウム、Li+がリチウムイオン、e–は電子、Aはその他の何かです。
ALiというリチウムを含んだ化合物が、プラスの電荷を持ったリチウムイオンと、マイナスの電荷を持った電子を放出して、A単独になるという反応です。
矢印を逆にみれば、Aがリチウムイオンと電子を吸収してALiになるという反応になります。
その両方が起こり得るので矢印を⇔で表しています。
電池になる仕組み
一種類の電極反応では、電池を組み立てることができないので、同じような反応をもうひとつ用意してみましょう。
BLi ⇔ B+Li++e–
ALi→A+Li++e–の方が、BLi→B+Li++e–より起こりやすいとします。
これで電池を組むと、下の図右側の「放電」のように、ALiがAになり、BがBLiになるという反応が起こり、電流が流れ、リチウムイオンが電解液中を移動します。

充電では、逆方向の電圧をかけることで、AをALiに戻し、BLiをBに戻すことができて元通りになるのです。
ALi→A+Li++e–と、BLi→B+Li++e–のどちらが起こりやすいかで、正極と負極が決まり、その差が大きいほど、高電圧になります。
これが、リチウムイオン二次電池の原理です。
電流が流れない状態で、電極の電位を測定すると電極電位が測定できて、これが反応の起こりやすさを表します。
電極電位を測定するためにはもうひとつ基準となる電極が必要で、その基準電極との電圧を測定します。
電圧は基準とする電極によって値が変わります。
通常は「標準水素電極」という電極を基準にした値で示すことになっています。
なぜリチウムイオンなのか?
イオンはプラスの電荷を持ったイオンなら何でもいいはずですが、なぜリチウムイオンを使うのでしょうか?
大きくふたつの理由があります。
リチウム原子は小さくて軽い
リチウムは、水素、ヘリウムについで三番目に軽い原子です。
「水兵リーベ僕の船……」
と周期表を覚えた人もいるでしょうが、水(水素)兵(ヘリウム)リー(リチウム)と三番目にでてきます。
金属の中で、もっとも軽くて、小さいのです。
電池では、金属原子が金属イオンになるという反応が起きますが、その反応を起こす金属原子が多ければ多いほど電池の容量が大きくなります。
リチウムは、もっとも小さくて軽いので、多くのリチウム原子を含んでいても小さくて軽い電池を作ることができます。
また、電池内でのイオンの移動や、電極内への侵入、電極の体積変化などでも、小さいことが有利に働くことがあります。
リチウムイオンはイオン化傾向が高い
リチウムは、一番イオン化傾向が高い、イオンになりやすい金属です。
起電力(電池の電圧)を高くするためには、正極と負極での反応のしやすさができるだけ異なるものを用意しないといけません。
ただ、リチウムイオンがリチウムになるという反応があります。
Li++e– →Li
充放電のときにで、この反応が起きてしまうと二次電池として使えません。
起電力を上げようとしても、この反応が起きない範囲でないといけないのです。
イオン化傾向が高いということは、イオンの状態が安定なのでこの反応が起きにくいということです。
そのため、起電力の高い電池が作れるのです。
※この反応自体を電極反応として使うこともできます。
リチウムイオン電池の発火

サムスンのスマートフォンGalaxy Note 7での発火や、ボーイング787の発火発煙事故など、リチウムイオン電池による発火は大きな問題になっています。
これは、リチウムイオン電池に使われる電解液が主な原因です。
これまでの電池は、電解液として水が使われていましたが、電圧が高いリチウムイオン電池では、電気分解されるために水は使えません。
そこで、可燃性の有機溶媒を使っています。
また、リチウムイオン電池は高電圧ということもあり、わずかな不具合で温度が上昇しやすいという特徴もあります。
何らかのトラブルや誤使用によって、異常に発熱して有機溶媒に着火する危険性が常にあるのです。
リチウムイオン電池の溶媒は、リチウムイオンを安定にできる極性と高い電気安定性が求められるので、使用できるものは限られてます。
そのため、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの、酸素を多く含む特に発火しやすい溶媒を使用しています。
リチウムイオン電池の発火対策
リチウムイオン電池の電解液には、セパレーターが必ず設置されています。
セパレーターは、リチウムイオンが通れるくらいの小さな穴が空いたフィルムです。

このフィルムがあることで、正極と負極の短絡を防いだり、金属リチウム析出による不具合を防止したりしています。
また、セパレーターは温度がかかると溶けて穴がふさがる(原料はポリエチレンまたはポリプロピレン)ことで、リチウムイオンの移動をシャットアウトしてそれ以上の反応を抑える役割も持っています。
このセパレーターを始めとして、様々な安全対策が施されています。
そのためリチウムイオン電池は、電池単体ではほとんど販売されてなく、外部からの安全対策を施した「電池パック」という形で販売されているのです。
スマホやパソコンからバッテリーパックを取り出すこともあると思いますが、それを分解したり、乱暴に扱ったりしないようにしましょう。
リチウムイオン二次電池の電極材料
一口にリチウムイオン二次電池といっても、電極に何を使うのかによって多くの種類があります。
一番多く使われているのが、正極はコバルト酸リチウム、負極に黒鉛を使うものです。
ざっくりと式で表すとこんな感じです。
LiCoO2 ⇔ CoO2+Li++e–
C6Li ⇔ C6+Li++e–
実は、このふたつは化学反応というよりも、リチウムイオンの吸収と放出といった方がよいものですが、機構としては変わりはありません。
電極の材料として色々なものが検討されてきましたが、コバルト酸リチウムと黒鉛電極によって、安定した充放電が可能になり、一気に用途が広がりました。
リチウムイオン二次電池はまだまだ進化中
リチウムイオン二次電池の正極材、負極材は、まだまだ開発途上のものがあります。
更に高性能なもの、安価なもの、安全性の高いもの、様々な研究が進んでいる最中です。
特に電気自動車を想定した二次電池は、市場規模も大きく激しい開発争いが繰り広げられています。
リチウムイオン二次電池の今後の開発動向にも注目していきましょう。