エネルギー保存則とはどんなものでしょう?
あえて聞くまでもない常識かもしれません。
「運動エネルギーと位置エネルギーを足しあわせたものが保存するという法則」
もちろん、正しい答えです。
でも物事の見方はひとつに決まるものではありません。
エネルギー保存則を少し違った視点で眺めてみると、新しい発見があるかもしれません。
そこで、普通とは違う観点からエネルギー保存則を眺めてみましょう。
エネルギーとは何か?
最初に物理で習うエネルギーについて、Q&A方式でおさらいしてみましょう。
- エネルギーとは何でしょうか?
- エネルギーとは仕事をする能力である
- 仕事とは何でしょうか?
- 仕事とは、力×動かした距離で表されるものである
「力×動かした距離で表される仕事をする能力をエネルギーと呼ぶ」なんだかややこしい表現になっていしまいます。
もう少しQ&Aを続けてみましょう。
- なぜエネルギーが保存するのでしょうか?
- …………
- なぜ仕事は力×動かした距離なのでしょうか?
- …………
簡単に答えられる人は少ないのではないでしょうか?
視点を変えてエネルギー保存則を考える
ここで、少し視点を変えてみましょう。
「なぜエネルギーが保存するのか?」
ではなく、
「保存するものをエネルギーと呼んでいる」
と考えるのです。
「色々な現象を観察していくと、保存される量が見つかったので、それをエネルギーと呼ぶことにした」
といった方が正確でしょう。
強引だと思われるかもしれませんが、実際にエネルギー保存則が発見された経緯は、これに近いのです。
保存するから意味がある
力×動かした距離を仕事と呼び、その仕事をする能力をエネルギーと名付ける、それは間違いではありません。
直接測定できないエネルギーという量を、面倒な定義で導いたのは、エネルギーが保存するからです。
もし保存しないのであれば、仕事とかエネルギーを定義しても使い道もない意味のないものになってしまいます。
仕事とは何か?
「保存するものをエネルギーと呼ぶ」のなら、仕事は何と説明すればいいのでしょうか?
エネルギーのトータルは保存しますが、ある物体から他の物体にエネルギーが移動することはできます。
エネルギーが移動したときの物体のエネルギーの変化量を仕事と呼ぶのです。
この方が、仕事の意味合いがわかりやすいのではないでしょうか?
もちろん、物体が仕事をしたのなら、もう片方も物体は仕事をされ、合計はプラスマイナスゼロになります。
力とは何か?
従来の考え方では、仕事は「力×距離」であらわされるのでした。
でも今は「仕事」を「エネルギーの変化量」という別の形で定義しています。
それなら、
仕事=力×距離
力=仕事÷距離
という形にすれば、仕事から力を定義することができます。
仕事はエネルギーの変化量なので、エネルギーの変化量を距離(位置)で割ったものが力になります。
物体の位置を動かすとエネルギーが変化する場合に、どれくらい動かせばどれだけエネルギーが増えるのか? それが力となのです。
どちらが正しいのか?
エネルギー保存則をふたつの方法で説明しました。
このふたつは「どちらが正しいのか?」という答えはありません。
視点を変えただけなので「両方正しい」のです。
力から出発して説明する理由
高校の物理では、ニュートンの力学を出発点にします。
ニュートン力学では、基礎となる運動方程式に力が入っていて、力が大きな役割を果たしています。
ですから、力からスタートした方が整合性がとりやすいのです。
そして力は、なんとなくイメージできます。
だから力を出発点にしてエネルギーを定義していく方が合っています。
エネルギーから出発する方法
今回はエネルギーからスタートしました。
エネルギーというのは、直接測ることができないもので、力よりイメージしにくい概念です。
そして、ニュートン力学の基本法則には出てきません。
ですから、エネルギーから出発した説明を見ることは少ないのでしょう。
でも、現在では得体のしれなかった「エネルギー」というものが、良く知られてきて、何となくイメージもできるようになっています。
もしかしたら、「エネルギー」からスタートした方がわかりやすい時代になっているのかもしれません。
エネルギーを出発点にする利点
エネルギーから出発点する方法には、他にも利点があります。
実は、エネルギーを出発点にしてニュートンの力学を再構築することができます。
普通に習うニュートン力学よりも数学的に難しくなりますが、全く同等の理論です。
そして、相対性理論や量子力学といった新しい物理法則との相性もよく、応用範囲が広いという特徴があるのです。
また、現在では「エネルギー」というと、電気、光、熱、化学、核、など、単なる運動エネルギー、位置エネルギーとは考えにくいエネルギーを考慮しないといけません。
また、エネルギーが移動する「仕事」も、単純に「力×距離」で表しにくいものが沢山あります。
色々なエネルギーを全て含んだエネルギー保存則は「熱力学第一法則」と呼ばれます。
ニュートン力学での「力学的エネルギー保存の法則」は、摩擦のない理想的な状態でのみ成り立つものですが、「熱力学第一法則」はどんな場合も成り立つ普遍の法則です。
この場合、エネルギーからスタートする方がすっきりします。
やっぱり、最初にエネルギーありきで考えた方がいい時代になっているような気がしてきました。
≫第二種永久機関とは何か? エネルギー保存則を破らない永久機関がある
≫核エネルギーはE=mc2によるものではない? 原子力エネルギーに関する誤解