GPSで位置を特定するためには、精密に時間を測らないといけません。
そのため各GPS衛星には、精度の高い原子時計を搭載して、地上の原子時計と時刻合わせをしています。
実はGPS衛星に搭載されている原子時計と、地上にある原子時計には違いがあるのです。
なぜ違うのか、その原因について説明してみます。
GPSの仕組み
GPSは、GPS衛星から送られてきた信号をキャッチして、信号(電磁波)が届くまでの時間から距離を測定しています。
そのときに、時計が1,000分の1秒ずれていたら、距離が300キロメートルもの大きな誤差になってしまいます。
そこで、GPS衛星の時計は、地上で測定された「国際原子時」と、1日に1回時間合わせをしています。
GPS衛星の状況
GPS衛星は高度約2万キロメートルの上空を、秒速約4キロメートルという高速で移動しています。
高度が高く地上よりも重力が小さい場所を、超高速で動いているのです。
これが、GPS衛星の原子時計を地上のものと変えなければいけない理由です。
相対性理論
相対性理論は、”アルベルト・アインシュタイン” が発表した物理理論です。
重力がない場合を扱う「特殊相対性理論」と、重力を扱う「一般相対性理論」の2種類がありますが、ともにそれまでの常識を覆すような理論です。
時間の進み方
相対性理論の特徴として、時間の進み方は置かれた状況によって変わるという不思議な現象があります。
私たちは、通常地表上に静止しているので、その状況での時間を基準にしています。
その基準の時間と、上空にあるものや地表に対して高速で動いているものでは、時間の進み方が違うのです。
地表から見たGPS衛星での時間の進み方
では、地表からみたときのGPS衛星での時間の進み方はどうなるのでしょうか?
高速で動いている
地表からみると、高速で動いているものの時間の進み方は遅くなります。
ですから、この効果によってGPS衛星では、時間がゆっくり進むことになります。
※この効果を単純に特殊相対性理論の効果だとしていることもありますが、それほど単純なものではありません。
上空にある
上空では、地球の重力が地表より小さくなります。
一般相対性理論によれば、重力が強いほど時間の進みが遅くなるので、重力の強い地表の方が時間の進みが遅い、つまり地上を基準にするとGPS衛星の時間は速く進むことになります。
トータルでの時間進み方
このふたつの効果を合わせると、地表を基準にして、GPS衛星では1日当たり約1万分の3秒速く進むことになります。
たった1万分の3秒だと思ってはいけません。
信号に使われている電磁波は、1秒間に約30万キロメートル進みます。
時間が1万分の3秒ずれると、衛星からの距離に10キロメートルもの誤差が出てしまいます。
※これは、現在位置が10キロメートルずれるということではありません。
全てのGPS衛星の時計が同じように進んでいれば(衛星の軌道情報を補正して)、位置の計算は可能です。
時間合わせ
GPSで位置を特定するためには、4つのGPS衛星からの信号を受信して計算します。
このとき、その4つの衛星の時計が同じ時刻を示している必要があります。
GPSに搭載されている原子時計は精密ではありますが、誤差があります。
衛星からの距離が、1日で数センチメートル程度ずれるくらいの誤差ですが、それが積み重なると大きな違いになります。
そこで、時間を決めて地上の「国際原子時」と、各GPS衛星の時刻合わせをしています。
電波時計の時刻合わせの精密版です。
時刻合わせでの変化
GPS衛星の原子時計が地上の国際原子時より、1日で1万分の3秒速くなったらどうなるでしょうか?
距離の計算値が、1日で衛星との10キロメートル、1時間でも400メートル変化することになります。
時刻合わせをするたびに、その誤差が修正されます。
時刻合わせが済んだGPS衛星と、まだ時刻合わせしていないGPS衛星からの信号をキャッチして位置を計算してしまったら、現在位置は大きくずれてしまいます。
このような混乱は避けたいですね。
GPS衛星搭載の原子時計の設計
GPS衛星では時間が速くなるのなら、最初からそれを計算に入れて時計を作ればいい、そう考えて衛星用の原子時計が作られているのです。
そのため、衛星に搭載する原子時計は、地上に設置する原子時計より、ゆっくり進むようになっています。
それを衛星軌道に乗せたときに、地上と同じように時間を刻むようにきっちり計算されているのです。
そうすると、時刻合わせでは、原子時計の誤差分の補正(数センチメートル)で済むので大きな混乱は起こりません。
このように、地上にある原子時計とGPS衛星用の原子時計は、時間の刻み方が異なるように作られているのです。