コペルニクスが地動説を唱えて、それまで信じられていた天動説をひっくり返した「コペルニクス的転回」は多くの人に知られています。
そして、地動説が正しく、天動説が間違いだと思っている人も多いでしょう。
でも本当にそうなのでしょうか?
この問いは、かなりややこしくて、簡単に答えることができないものなのです。
そのことを簡単に説明してみましょう。
天動説と地動説の英語表現
天動説、地動説は、英語で何と呼ぶのか知っていますか?
天動説は、”geocentric theory” と呼ばれ、”geo” はギリシャ語で「地球」を表し、その後に”centric” (中心の)、” theory”(学説)が続きます。直訳すれば「地球中心説」といった意味です。
同じように、地動説は、”heliocentric theory” で、”helio” はギリシャ語で「太陽」を表すので「太陽中心説」といった意味になります。
- 天動説:地球中心説
- 地動説:太陽中心説
地球中心説というのは、宇宙の中心が地球であること、太陽中心説は宇宙の中心が太陽であることを意味します。
でも天動説、地動説という言葉からは、宇宙の中心だという意味が全く伝わってきません。
そのため、天動説、地動説という訳は不適切だと言われることも多いのです。
ちなみに中国語では、天動説のことを「地心説」と呼んでいて、英語表現に則した形になっています。
地動説は正しいのか
「地動説は正しいでしょうか?」
そう聞くと、多くの人が正しいと答えると思います。
「太陽中心説(太陽が宇宙の中心にある)は正しいでしょうか?」
そう聞くと、今度は多くの人が間違いだと答えるのではないでしょうか?
「地球は動いているけれど、宇宙の中心は太陽ではない」ことを知っているからです。
翻訳の仕方で、こんな大きな違いが生まれてくるのです。
本来の意味からすると、(太陽を宇宙の中心に置いた)地動説は間違いと考えた方がいいのかもしれません。
天動説は正しいのか
「天動説は正しいでしょうか?」
こう聞くと「間違い」と答える人が多いのではないでしょうか?
でも、地動説の時とは違う解釈をしている人が多いはずです。
「地球が動いているから地動説は正しい」
と考えているとすれば、
「もし太陽が動いていれば天動説は正しい」
となるはずです。
太陽が銀河系の中心の周りを回っている(銀河系自体も動いている)ことを知っていれば、
「太陽は動いているのだから天動説は正しい」
と答えてもいいはずです。
「天動説」といった場合に、知らず知らずのうちに「地球が中心にある」という意味合いを感じているのだと思います。
宇宙に中心はない
現在では、宇宙に中心はないとされています。
「地球中心説」も「太陽中心説」も間違いなのです。
その「太陽中心説」の訳語である「地動説」を正しいと思っていいのでしょうか?
もちろん「地動説」の定義の問題です。
訳語ではなく「地球が動いているという仮説を地動説と呼ぶ」とすれば、地動説は正しいでしょう。
それなら「太陽が動いているという仮説を天動説と呼ぶ」として、天動説も正しいと呼んでもいいことになってしまいます。
なんだかすっきりしません。
座標の取り方
もっとややこしいのは、物体が動いているか止まっているかという区別はつかないということです。
物体の運動は、時間によって位置が変化していくものです。
その位置を何を基準にして表すのか、そこは自由に決めることができます。
その基準を座標と呼びます。
地球上で物体が運動している状態を表すときは「地球が止まっている」として地表を基準にした座標を使います。
ボールが放物線を描いて飛んでいく様子を、地球の自転や公転まで考慮して計算することはありません。
もちろん考慮してもいいのですが、計算が面倒になるだけなので、地球が止まっているという座標を使うのが普通です。
同様に、太陽系の惑星の運動を表すときには、太陽が止まっているとした座標で表します。
それが一番計算が簡単だからです。
座標は、計算しやすいように、わかりやすいように決めればいいのです。
このように「地動説」「天動説」の「動く」の意味もあいまいなもので、正しいとか間違いとか決めることすらできないものなのです。
最後に
ここまでで、必要な証拠は出揃いました。
後は、自分なりの答えを出してみて下さい。
「地動説が正しく、天動説が間違いだというのは本当でしょうか?」