21世紀になって、イオン液体と呼ばれる新しい液体が一気に注目を集めるようになりました。
イオン液体の性質や構造、応用などについて活発に研究がされています。
このイオン液体は、一体どんもので、どんな特徴があって、どんな応用が考えられるのか? わかりやすく説明してみたいと思います。
イオン液体とは?
最近注目を集めているイオン液体とは一体どんなものなのでしょうか?
イオンとは何か?
まずはイオン液体の「イオン」について説明します。
イオン(独: Ion、英: ion、中: 離子)とは、電子の過剰あるいは欠損により電荷を帯びた原子または基のことである
Wikipedia
通常の原子や分子は、原子核の持つプラス電荷と電子のマイナス電荷が同数で釣り合っています。
しかし、プラス電荷とマイナス電荷が釣り合っていない状態で存在することもあり、これをイオンと呼びます。
イオンにはプラスの電荷を持った陽イオン(カチオン)と、マイナス電荷を持った陰イオン(アニオン)があります。
イオンの例
イオンの代表例として食塩(NaCl)を挙げて説明していきます。
NaClの結晶は、プラスの電荷を持ったナトリウムイオン(Na+)とマイナスの電荷を持った塩化物イオン(Cl–)が交互に並んで配列して構成されています。
プラスの電荷とマイナス電荷が引き合うことで、イオン結合と呼ばれる結合が生まれ、それによって結晶が形作られるのです。
このNaClを水に溶かしてみましょう。
NaClが水に溶けると、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl–)がばらばらになって、単独で存在するようになります。
この水溶液のように、陽イオンや陰イオンが単独で存在する場合を主にイオンと呼ぶことが多いようです。
溶融塩
食塩(NaCl)の結晶に熱を加えていきましょう。すると800℃くらいで結晶が融けて液体になります。
この液体の中では、ナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl–)がばらばらになって存在しています。
これを溶融塩と呼びます。
イオンがばらばらになっている状態は、水溶液の状態と似ていると感じられるかもしれませんか、水という異物がなくナトリウムイオン(Na+)と塩化物イオン(Cl–)だけしか存在していない全く違う特性を持つものです。
イオン液体はこの溶融塩に近いものです。
イオン液体
イオン液体は溶融塩の中でも融点が低いものを指します。低い温度で液体のイオンになるのです。
低い温度といってもどのくらいの温度からイオン液体と呼ぶのか、まだ統一的な定義は定まっていません。
室温で液体のものをイオン液体と呼ぶ、融点が100℃以下のものをイオン液体と呼ぶ、150℃以下のものをイオン液体と呼ぶなど、様々な定義が提案されている状態です。
また、陽イオンか陰イオンのどちらかが有機物イオンであることなどを定義とする場合もあります。
まだ定義が定まっていないというのは、それだけ新しいもの(新しい概念)だとも言えるでしょう。
イオン液体の歴史
イオン液体(ionic liquid)という言葉が最初に使われたのは1992年の”J.S.Wilkis”らの論文だと言われています。
日本語では当初「イオン性液体」と訳されていましたが、ionicという言葉をイオン性と訳すことはなく普通にイオンとすることが多い(ionic bond⇒イオン結合のように)ため、「イオン液体」と呼ぶようになりました。
常温で液体の塩としては、1914年に融点12度の硝酸エチルアンモニウムをパウル・ヴァルデンが報告していましたが、注目されることはありませんでした。
その後も低温で溶融塩になる物質の検討はなされてはいたものの、安定に存在できないものが多く研究は細々としたものでした。
1990年代にイオン液体という呼称が使われて以来、安定なイオン液体が数多く見いだされ、21世紀になって一気に活発に研究されるようになりました。
イオン液体の特徴
イオン液体は水や有機溶剤などの従来の液体と比較してどのような特徴があるでしょう?
簡単に説明していきます。
低揮発性
従来の液体は蒸気として揮発します。
しかしイオン液体は蒸気圧がほぼゼロであり、ほとんど揮発することがありません。
そのため揮発による大気汚染や蒸気を吸うことによる健康被害の心配はなく、揮発して無駄になることもなく、気圧が低い状態(真空下など)でも使用できるという特徴があります。
難燃性
イオン液体は難燃性に優れています。
有機溶剤のように燃えることもなく、当然爆発の心配もありません。
電気伝導性
イオン液体は電荷を持ったイオンが自由に動ける状態であるため電気伝導性に優れる性質があります。
水や有機溶媒では電気伝導度を上げるため、イオン性化合物の電解質を溶かす必要がありますが、イオン溶液はそれ自体が電解質のようなものですから電気伝導性に優れているのです。
電気的安定性
イオン液体は電気的に分解されにくいという特徴があります。
水は電気分解で水素と酸素に分解されます。有機溶剤も高電圧で分解します。
しかしイオン液体は、電気的に安定しているのです。
電池では、溶剤が分解する電圧以上の電圧を得ることはできません。
イオン液体を電解液に使えば(高電気伝導性と相まって)非常に高い電圧を得る電池や、高圧急速充電に対応した電池などに対応可能です。
その他
その他、イオン液体化学反応の溶媒に使うことで、これまで実現できなかった反応を起こすことができることなどが知られています。
イオン液体の特性にはまだ未知な部分も多く、今後新たな特性や用途が見つかる可能性が多いにあるのです。
イオン液体の用途
イオン液体は様々な用途への応用が研究されています。
その中でも特に注目されている分野を紹介します。
電池分野への応用
イオン液体の応用として特に注目されているのが、電池分野への応用でしょう。
先に挙げたイオン液体の特徴である、低揮発性、難燃性、電気伝導性、電気的安定性、これらは全て安全で高特性の電池の溶媒の性質として求められるものです。
まさに電池に使われるために存在しているのではないかと思われるほどです。
溶剤としての応用
化合物を溶解させる溶剤としての応用も盛んに研究されています。
揮発性がなく、難燃性であるため、環境にやさしく、安全に使える溶媒として注目されています。
また、これまで溶ける溶媒がなかった化合物を溶解させることも知られています。
一例を挙げるとセルロースの溶媒としての研究が進んでいます。
セルロースは植物繊維の主成分でこれまで直接溶解する溶剤がありませんでした。
セルロースはバイオマス燃料の原料として研究されており、その製造にイオン溶液を利用したり、セロファンやレーヨンなど環境に優しいとして再注目されている材料の安全な合成法にも応用が期待されています。
≫≫セルロースとは? 生活に欠かせない植物が生んだ万能材料を簡単に説明
化学反応への応用
イオン液体を溶媒とすることで、従来行えなかった新しい化学反応が数多く見出されています。
社会に役立つ物質の安くて安全で環境に優しい合成法としてイオン液体が幅広く利用さていくことでしょう。
イオン液体の応用はまだまだ発展途上であり、思いもよらない応用が見つかるかもしれません。イオン液体の未来を見守っていきましょう。
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