トヨタの ”MIRAI” やホンダの ”クラリティ フューエル セル” といった燃料電池自動車、家庭用発電機の ”エネファーム” など、さまざまな場所で活躍している燃料電池。
普通の電池とは違うものだということは知ってても、詳しいことはわからない人も多いと思います。
そこで、燃料電池の仕組みやメリットについて、わかりやすく解説してみます。
燃料電池の仕組みと水の電気分解
燃料電池に入る前に、水の電気分解の話をします。
それさえ知れば、燃料電池の大まかな仕組みは理解できるからです。
水の電気分解
水溶液(電気を通すもの)に電極を入れて電流を流すと、水が電気分解されて酸素と水素ができます。
これが電気分解です。
酸素が発生する反応
酸素が発生する反応は以下のように表せます。
2H2O→O2+4H++4e–
水(H2O)が、電子(e–)を引き抜かれて、酸素(O2)と水素イオン(H+)になる反応です。
水溶液がアルカリ性の場合は、少し違う反応になります。
4OH–→O2+H2O+4e–
※両辺に4H+を加えると、最終的な反応物と生成物は最初の式と同じです。
水素が発生する反応
一方で水素が発生する反応は、以下のようなものです。
4H++4e–→2H2
水素イオン(H+)に電子(e–)が与えられて、水素(H2)になって溶液から出ていきます。
両方の反応を足し合わせると、水が水素と酸素になる反応になります。
2H2O→O2+2H2
燃料電池の仕組み
同じように燃料電池での反応を図にしてみましょう。
水の電気分解の図から、矢印の向きを全て反対にしただけです。
電気分解の反対のことをやれば燃料電池になるのです。
片方の電極に酸素、もう片方の電極に水素を吹き込むと電流が流れる、これが燃料電池の仕組みです。
水の電気分解が充電、燃料電池が放電となる二次電池(バッテリー)と考えてもいいでしょう。
燃料電池の歴史
燃料電池の仕組みは1801年に ”ハンフリー・デービー” というイギリスの化学者が考案しました。
原理自体は簡単なので、ボルタの電池が発明されてすぐに考案されました。
でも、電池としては使い勝手が悪いですし、水素などの燃料を燃やして発電する方法も開発されたことから、燃料電池は一旦表舞台から姿を消します。
燃料電池の復活
1900年代の後半になって、燃料電池の改良が進み少しずつ使われ始めます(主に電解液の改良)。
とはいっても宇宙用途などの特殊な用途だけで、私たちの身の回りで使われることはありませんでした。
家庭用の燃料電池の開発も進みましたが、実用化はかなり先の話になります。
2000年代
2000年代に入ると、携帯機器向けなど民生用の燃料電池の発表などもありましたが、普及しませんでした。
結局、一般に燃料電池が知られるようになるのは、トヨタの ”MIRAI” や、家庭用発電機の ”エネファーム” に使われ始めてからと言ってもいいでしょう。
燃料電池のメリット
燃料電池は、どんな特徴があって何がメリットなのでしょうか?
簡単に説明してみます。
効率が高いというメリット
燃料電池の反応は、水素と酸素が反応して水になるというものです。
水素をいう燃料を燃やしているのと同じです。
それなら、燃料電池を使わなくても、水素を燃やして、その力でタービンを回して発電したり、エンジンを動かしたりできるはずです。
でも、それよりも燃料電池にした方が有利なのです。
水素を燃やす方法は、一旦熱に変換するために、どうしても効率が落ちてしまいます。
その点、燃料電池なら(理論的には)エネルギーを全て電力に変えることができるというのが大きな特徴です。
無駄がないというメリット
燃料電池は、水素という燃料を使って効率よく発電する装置です。
発電所で発電して、その電気を送電する場合、どうしても電力のロスが出てしまいます。
しかし、水素(または天然ガス)の状態ならロスがなく、必要なときに必要な場所で発電できるというメリットがあります。
環境に優しいというメリット
燃料電池は、生成物が水だけなので、CO2や排気ガスを放出することがなく、環境に優しいという特徴があります。
ただ、これは燃料電池で電気を作る段階での話です。
発電に使う酸素は空気中に豊富にありますが、水素は補給しないといけません。
そのためには、水素を作る工程が必要になります。
現在の技術では、その水素を作る過程で環境負荷が避けられません。
燃料電池に必要な水素を作る方法について、説明してみます。
水から水素を作る方法
地球上にある水素の大部分は、水という形で存在しています。
ですから、水から水素を作れば、原料が豊富にあり資源を無駄にすることはありません。
しかし、水から水素を取り出すには、電気分解をしなければなりません。
その電力はどこから供給するのかという問題が発生します。
水の電気分解が充電で、燃料電池が放電だとすれば、充電用の電源が別に必要になるのです。
天然ガスから水素を作る
現在、水素の製造に一番使わている方法は天然ガスから作る方法です。
天然ガスに一番多く含まれる成分メタン(CH4)を例に、水素を取り出す反応を書いてみます。
CH4+H2O→CO+3H2
CO+H2O→CO2+H2
メタン(CH4)と水(H2O)を反応させ、一酸化炭素(CO)と水素(H2)にします。
この時できた一酸化炭素(CO)は、更に水と反応させて、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)にするという反応です。
エネファームなどのガスを使った燃料電池でも、この反応を利用して水素を作ってから燃料電池で利用しています。
式をみればわかるように、ガスに含まれていた炭素は全てCO2になっています。
この方法では、天然ガスを燃やしたときと同じだけ、CO2が発生するのです。
今後期待する水素製造方法
現在、注目されている水素の製造方法は、光触媒を使ったものです。
水に触媒を入れ、太陽光が当たると酸素と水素が発生するというものです。
光を化学的なエネルギーに変えるので「人工光合成」と呼ばれたりする技術です。
通常、光触媒として使われている酸化チタンも人工光合成の機能を持っています。
まだまだコスト的には合わないですが、研究も盛んで新しい触媒系も次々発明されているので、そのうち本格的に実用化されるのではないかと期待しています。
燃料電池の一種「空気電池」
水素を使う燃料電池とは、少し違いますが大きな枠組みで燃料電池に分類されるものに「空気電池」があります。
これは、片方の電極で酸素を消費する反応を利用するもので、もう片方の電極では金属が使われています。
片方だけが「燃料電池」という言い方もできますし、普通の燃料電池が「燃やす」反応を利用するのに対して「錆びる」反応を利用した電池と考えることもできます。
反応物質の酸素は空気中から取り入れるので、電池に内蔵しなくて済み、その分小型化しやすいというメリットがあります。
空気電池の一種「亜鉛空気電池」は、補聴器などの携帯部品用に利用されています。
まとめ
最後に、燃料電池についてまとめてみます。
- 燃料電池は水の電気分解と逆の反応
- 燃やして利用するより効率が高い
- CO2を出さずに環境に優しいと言われているけど、現状では水素製造時に環境負荷がある
- 必要なときに必要な場所で発電できるという大きなメリットがある
水素以外の燃料を使った電池も研究されていて、今後も期待できる技術であることには間違いありません。