以前の記事『確率は難しくて当たり前? 数学者も悩んだ確率論の話』で、17世紀の有名な数学者が確率に悩んでいたことを説明しました。
同じように数学者を悩ました確率の問題に「モンティー・ホール問題」と呼ばれるものがあります。
この「モンティー・ホール問題」が論争になったのは、なんと1990年のこと。
これほど最近になっても数学者が悩むような問題があったのです。
※「モンティーホール問題」は納得しずらいことから「モンティーホールパラドックス」とか「モンティーホールのジレンマ」などと呼ばれることもあります。
モンティーホール問題とは
”モンティ・ホール問題” というのは、モンティ・ホールさんが司会を務めるアメリカのゲーム番組から発生したものです。
後に大論争になるのですが、その元ネタはいたって単純です。
モンティー・ホール問題の大元
モンティー・ホールは次のようなゲームが元になっています。
- プレイヤーの前に中が見えない3つの扉がある
- 扉の1つには景品の新車があり、残りの2つの扉にはハズレを意味するヤギがいる
- プレイヤーは扉のうち1つを選ぶ
- 司会者が、プレイヤーが選んだものとは違う扉のうちハズレの扉を1つ開ける
- プレイヤーには選んだ扉を変更する権利が与えられる
- プレイヤーは最初に選んだ扉のままか、もう1つの閉まった扉に変更するか決める
- 選んだ扉に新車があれば景品として新車がもらえる
図にするとこんな感じのゲームです。
それでは、ここで問題です。
「プレイヤーは最初に選んだ扉のままにするか、もう1つの扉に変更するか、どちらを選択した方がいいでしょうか?」
マリリン・ボス・サヴァントの回答
ちなみに自分は最初にこの問題を聞いたとき「選んだ扉を変えても変えなくても確率は2分の1で同じ」と思いました。
それに対して「ドアを変更すると当たる確率が2倍になるので変更するべき」と言った人がいます。
マリリン・ボス・サヴァントとうコラムニストです。
マリリン・ボス・サヴァントは、世界一IQが高いとギネスに認定されている人で、ニュース雑誌「Parade」で読者からの質問に答えるコラムを連載しています。
その中で、このように回答したのです。
サヴァントへの投書
その解答に対して「間違っている」という投書が、約1万通も殺到したそうです。
「2つの扉のうちのどちらかが当たりなのだから、変更してもしなくても確率は2分の1で同じ」
という投書です。
世界一IQが高い人へ反論するくらいですから、その多くは腕に覚えのある人たちです。
投書の10分の1は、博士号を持っている人だったとのことです。
投書の中身
サヴァントは、反論のためにその手紙の中から数通を公開しました。
Wikipediaに記載されている反論の手紙は以下のようなものです。
ジョージ・メイソン大学 ロバート・サッチス博士
「プロの数学者として、一般大衆の数学的知識の低さを憂慮する。自らの間違いを認める事で現状が改善されます」フロリダ大学 スコット・スミス博士
Wikipedia
「君は明らかなヘマをした(中略)世界最高の知能指数保有者自らが数学的無知をこれ以上世間に広める愚行を直ちに止め、恥を知るように!」
現役の数学者から、こんな攻撃的な投書が届いていたのです。
サヴァントと反対者のやりとり
サヴァントは、投書に反論して自説を説明しましたが、多くの人は納得しません。
E・レイ・ボボ博士
Wikipedia
「(前略)現在、憤懣やるかたない数学者を何人集めれば、貴女の考えを改める事が可能でしょうか?」
このように、「数学者」対「世界一のIQ」といった構図になるほどの大問題になってしまいました。
決着はどちらに
「さいころを2つ投げたとき、5と6がでる確率と6と6がでるかどちらの確率が高い?」
この問題に17世紀の数学者が悩んでいた構図とも似ています。
どちらが正しいのか理論的に論争しても中々決着がつきません。
それなら実際にやってみればいいのです。
そう考えてコンピューターシミュレーションを行ってみると、扉を変更すると変更しない場合よりも2倍の確率で当たるという結果になったのです。
サヴァントの答えの方が正しかったことが証明されました。
モンティー・ホール問題の解答
なぜ扉を変更した方が当たる確率が高くなるのか説明してみます。
- プレイヤーが扉を選んだ時点で、その扉が当たりである確率は3分の1
- 残りの2つの扉のどちらかが当たりである確率は3分の2
- 残りの扉にA、Bと番号をふる
- 司会者がAの扉を開けて中にヤギがいることをみせる
- Aが当たりの確率は3分の1から0になる
- A、Bどちらかが当たる確率は3分の2なので、Aが0ならBが当たる確率が3分の2になる
- よって、選んだ扉を変更すると当たる確率が2倍になる
納得できました?
納得できた人は大したものです。
サヴァントが、図を使ってこのような説明しても納得しない数学者が多数いたのですから。
納得できる説明
納得しやすいようにルールを変更します。
扉の数を3個から100個に増やしてみます。当たりは100個のうち一つだけです。
まず一つの扉を選びます。
その後、司会者がハズレの扉を98個開けます。
最初に選んだ扉のままか、残った扉に変更するかどちらの方が当たる確率が高いでしょうか。
こう考えると変更した方が確率が高くなることに納得できるのではないでしょうか?
ちなみに、サヴァントはドアの数を100万に増やして説明したそうですが、それでも納得してもらえなかったそうです。
数学者への弁護
モンティー・ホール問題では、サヴァントの説明を比較的素直に納得した人もいました。
面白いのは、数学者を含め数学や確率が得意な人の方が納得しなかったという点です。
数学を得意とする人は、単純化した数学の問題としてモンティー・ホール問題を考えます。
モンティー・ホール問題では、司会者が当たりの扉を前もって知っていることが前提です。
プレイヤーが最初に選んだ扉が間違いだった場合、残った扉(当たりとハズレ)のうちハズレの方を選んで開けます。
単純化して考えると「ハズレの方を選んで」の部分が盲点になるのです。
司会者が答えを知らなかったとします。
プレイヤーが扉を選んだ後、残りの2つの扉のうちどちらかをランダムに開けます。
もしその扉がハズレだった場合、プレイヤーは扉を変更してもしなくても確率は2分の1で同じになります。
その代わり司会者が開けた扉が当たりだった場合は、その瞬間にプレイヤーが当たる確率が0になってしまいます。扉を変更してもしなくても外れなのはわかりきっていますから。
司会者が答えを知っている場合、後者があり得ないので確率も変わってくることになります。
事前確率と事後確率
モンティーホール問題では、最初はどの扉も当たる確率は3分の1です。
その後ハズレの扉が1つ開けられ、情報が追加されます。
その追加情報によって確率も変動します。
最初の情報(3つのうち1つが当たり)に基づいた確率を事前確率、追加の情報(ハズレの扉がひとつ判明)によって変化した確率を事後確率と呼びます。
司会者がハズレを選んで扉を開けた場合と、ランダムに開けた扉が偶然ハズレだった場合では、事後確率が違ってくるのです。
このように事前確率から事後確率を求める場合、ベイズ推定という方法が使われます。
ベイズ推定では「司会者の知識」といった数学になじまないことを考慮しなければなりません。
そういう理由もあって、事前確率から事後確率を求める場合、直感に反した結果が出ることが多々あります。
いずれ、他の例も挙げて説明したいと思っていますが、興味がある方は「ベイズ推定」で検索してみて下さい。
https://tbits.jp/bayes/