地球から月を見ると、いつ見てもウサギが餅をついているような模様がみえます。月はいつも同じ面を地球に向けているのです。
これは月が地球の周りを回る公転と、月自身が自転する周期が一致しているということです。
もちろん、偶然そうなったのではなく、ちゃんとした理由があります。
ネットで検索すると月の自転と公転の周期が一致している理由を説明しているサイトが沢山ありますが、なんだか混乱しているように思えます。
「月の自転と公転の周期が一致しているのは○○だからだ」と一言で済ませられる単純な問題ではないのですが、それを何とか簡単で説明しようとしている結果、混乱が起きているのでしょう。
ここでは、月の自転と公転の問題を少し深く考えてみます。
長くはなりそうですが、そんなに難しい話ではないので是非読んでみて下さい。
潮汐力とは
月の公転と自転の周期の一致に重要な役割を果たすのが「潮汐力」です。地球の潮の満ち引きの原因なので、そう呼ばれています。
潮の満ち引きは、月(と太陽)が地球に及ぼす潮汐力によって起こりますが、それと同じように月も地球からの潮汐力を受けています。
これが月の自転と公転が一致している大きな原因です。
潮汐力の発生原因
月には地球の重力が働いています。重力は地球の中心に向かった力で、距離が近いほど強く、遠いほど弱くなります。
ですから、月の地球に近い場所は強く引っ張られ、遠い場所は弱く引っ張られます。また、力は地球の中心を向いているので、横の方は斜めに引張られます。
この引力によって地球の周囲を回る(向心力)のですが、場所による重力の働き方の違いの影響は残り、月を引き延ばそうとする力となります。
これが潮汐力です。
潮汐力の作用の特徴
星の軌道などを計算するとき、星を大きさのない点(質点)として取り扱うことが多いのですが、その場合は潮汐力は現れません。
点ではなく大きさがあるからこそ、場所によって重力が働く方向や大きさが違いを考慮する必要があり、それが潮汐力とよばれてるのです。
潮汐力の大きさは、重力中心からの距離の3乗に反比例します。離れると急激に小さくなっていくので、距離が遠い場合は無視できます。
月以外にも公転周期と自転周期が一致している衛星は沢山ありますが、どれも惑星に近い軌道を回る衛星です。
惑星から離れた軌道を回る衛星では周期が一致していません。
公転と自転の周期が一致する要因が潮汐力だから、というのがその理由です。
月を剛体とした場合の説明
月を質点と考えると潮汐力が考慮されないので、自転と公転の周期が一致する理由は説明できません。
そこで、月を大きさを持った剛体(大きさを持って変形しないもの)として考えてみます。実は剛体として考えるだけでは月の自転と公転周期が一致する理由は説明しきれないのですが、まずは単純でわかりやすい設定で考えてみます。
ここでは、単純化するために地球の変化は無視します。また公転は月と地球の共通重心が中心ですが、それも無視して地球の周りを月が自転していると考えます。
月の形と潮汐力の関係
月などの衛星は、完全な球ではありません。
また内部も一様とは限らず、比重の重い部分や軽い部分があるはずです。月も少しですが、ラグビーボール状になっています。
このとき、下の図のように長軸の延長に地球があるときが一番安定しています。
なぜなら、自転速度が僅かに変わって方向が変化した場合、潮汐力によって自転速度を元に戻そうとする力(モーメント)が発生するからです。
下の図のように、軸がずれた位置を引張ると、赤い矢印の方に回転すると考えればわかりやすいでしょう。
長軸が地球の方向を向いている状態から、わずかにずれると潮汐力によって元に戻そうとする力(復元力)が働くということです。
同じことなのですが、少し視点を変えると「潮汐力を考慮した位置エネルギーが一番低い状態」で安定していると考えることができます。
ここでは、衛星の形で説明しましたが、形だけでなく重たい部分と軽い部分があるような不均一性でも安定な方向が存在します。
これはわかりやすい説明で、実際にこのことで月の自転と公転の周期が一致することの説明としているものも見かけます。しかし最初に言ったようにこれだけで周期の一致を説明することはできないのです。
モーメントとは回転させようとする作用だと考えておいて下さい。
ここでは「わずかにずれると元に戻そうとする力が働く」 というように「わずかに」という言葉を強調しています。
「わずかじゃなくてもずらせば元に戻そうとする力が働くんだけら必要ないだろう」と思われるかもしれません。
実は、自転の回転速度を変えるというのは、単純なことではなく、自転速度だけを変えらることはできません。
連動して他にも変化する部分があります。
「わずかに」としたのは、他の変化を無視したいからです。
もちろん、他の変化を考慮しても同じ結論になるのですが、ややこしいので避けました。
自転と一緒に公転も変わる?
ちょっと話が逸れますが、「自転と一緒に公転も変わる」ことを説明しておきます。
先ほどの復元力のように月の自転を変化させる力(モーメント)が発生したととき、月の公転速度を変えるようなモーメントも同時に発生します。
この時に発生する公転速度を変えるモーメントは、自転速度を変えるモーメントと同じ大きさで方向が逆になります。
自転を時計まわりに回そうとすると、公転を反時計回りに回そうとするモーメントが働くのです。
ここでは詳細は省きますが、気になる人は計算してみて下さい(モーメントを理解していること前提で)。
なんだか不思議な気がしますが、「角運動量保存則」という物理の基本法則から、そうならないとおかしいのです。
公転軌道が楕円の場合
剛体として考えるだけでは自転と公転の周期が一致しないと言いながらもう少し考察を続けてみます。これまでは、衛星軌道を円と考えてきましたが、実際は楕円軌道なので楕円軌道の場合を考えておきたいのです。
実は楕円軌道で自転と公転の周期が一致した状態が安定するためには、これから説明する効果が必要だということもわかっています。
楕円軌道の場合の自転と公転の関係を下図に示します。楕円軌道の場合、公転周期と自転周期が一致していても、地球などの惑星に同じ面を向け続けることはできません。公転の速度(各速度)は地球に近いほど速く、遠いと遅いからです。
地球から見ると月は完全に同じ面を向けているわけではなく、首振り運動をしているように見えるのです。実際に月は完全に地球に同じ面を向けている訳ではなく、8°くらいぶれています(経度秤動と呼ばれます)。
公転の間、できるだけ長軸方向が地球に近い方向を向くような状態で安定化しているのです。
公転周期と自転周期が一致していると、1周公転する間に働くモーメントは、図の上半分は反時計回り、下半分は時計回りで、打ち消しあうので自転周期は変化しません。
楕円軌道の特殊な例
極端な楕円軌道の場合、自転と公転の周期が一致しない状態で安定化することがあります。
下の図は、1回公転する間に1回転半自転する場合を示しています。
この場合も上半分と下半分で潮汐モーメントは一致します。
潮汐力は惑星に近いときに大きくなるのでした。その惑星に近い部分だけを見ると、長軸が惑星に近い方向を向いていることがわかると思います。
その代わりに惑星から遠い部分は長軸は惑星とは全く違った方向を向いてしまいます。ただ、惑星から遠いために潮汐力が非常に小さく、影響が少ないのです。
太陽系には、このような衛星は(たぶん)ありません。でも、1回公転する間に1回転半自転しているよく知られた例があります。
水星です。
水星は太陽の周りを1回公転する間に1回転半自転しています。
水星の軌道はかなり扁平な楕円ですし、太陽に一番近い惑星で潮汐力がも大きいため、このような軌道を保っているのです。
月を剛体とした場合の欠点
ここまで、月を剛体としたモデルで自転と公転を考えてきました。
最初に言ったように、これだけでは月の公転周期と自転周期が一致している理由を説明しきれていません。
ここまでは、まだ導入部に過ぎないのです。
月の自転と公転の周期は、昔は違っていたはずです(自転が速かった)。それが少しずつ一致してきたのですが、そのことを全く説明できないのです。
公転と一緒に回転する視点
これからの説明を簡単にするために、図のように月の公転と一緒に回る視点で考えてみます。
そうすると、地球と月の位置は一定で、月の自転の様子だけを考えることができます。
この視点では、月の自転と公転が一致している場合、自転していないように見え(視点の方が公転周期で回っているため)ます。
公転より自転が速い場合は反時計回りに回転、自転の方が遅い場合(もしくは逆方向に自転)は時計回りに月が回転しているように見えます。
月の公転より自転の方が速い場合
まずは月の公転より自転の方が速かったころを考えてみます。新しい視点で眺めると、月が反時計回りにくるくる回転しています。
このときに発生するモーメントは月が傾むく角度によって変わります。
図の上の方向に傾いている場合は時計回りに力(モーメント)が発生し、月の自転速度速度を落とします。下図の方向では反時計回りにモーメントが働き自転速度を速めます。
月が一回転する間に速度は速くなったり遅くなったりしますが、一回転すると自転を遅くする方向と自転を速くする方向へのモーメントが一致して打ち消しあい、自転速度は変化しないという結論になります。
自転が遅くなることはないのです。
自転の速度と公転周期がほぼ同じ場合
自転の周期と公転の周期がかなり近く、(地球の方向に対して)1回転できない状況を考えます。
すると、図のようが振り子運動に変わります。
この場合も同じ振り子運動を続けるだけで、自転と公転周期が一致することはありません。
時間反転対称性を考えてみる
唐突ですが、ここで時間反転対称性というものを考えてみます。
時間反転対称性というのは、ある現象が起きた時、それを時間を反転した現象、つまり録画して逆再生した現象も同じように起こる可能性がある状態のことです。
「公転と自転の周期が一致している状態」「回転を続けている状態」「振り子のように揺れている状態」これまで考えた全ての状態は時間を反転しても、自転や公転の回転方向が変わるだけで、物理的におかしな点は全くありません。
「時間反転対称性がある」 のです。
ちなみに、これまで使ってきた力学(ニュートン力学)は、時間反転に対して対称な理論です(力を保存力とした場合)。
ニュートン力学をどう駆使しても、時間反転対称な結果しか出てきません。
今知りたいのは「公転と自転が一致した理由」です。
公転と自転の周期が違っていた状態から一致した状態への一方通行の変化の理由です。
時間反転対称ではありません。
「公転と自転が一致した理由」を説明するのは、ニュートン力学だけでは絶対無理なのです。
ということで、ニュートンの力学から離れる時期が来ました。
潮汐力による変形を考えてみる
月を質点と考えては説明できず、大きさのある剛体(変形しない物体)と考えてもまだ足りない、自転と公転の周期が一致する理由は奥が深いようです。
最後の手段です。月が変形することまで考慮しましょう。
「月の公転と自転の周期が一致している理由」としてネットでもよく見かける王道の説明なのですが、説明不足(あえて踏み込んでない?)と感じることが多いので、ちょっと踏み込んで説明したいと思います。
潮汐力による変形の遅れ
これまでは、球ではなく変形した形状のものに潮汐力が働くことを考えてきましたが、今度は潮汐力によって球が変形することを考えます。
上のような力がかかることで、下のように変形します。
この変形の間にも月は自転、公転しています。もし、力が働いてから変形するまでに時間がかかり、変形が遅れるとしましょう。
その間に月は公転して位置が変わります。
公転周期と自転周期が一致していれば何も起きませんが、周期が異なっている場合には変形が遅れることで変形後の長軸方向と地球の方向がずれてしまいます。
方向がずれると、楕円のときと同様に潮汐力による回転させようとするモーメントが発生します。
自転の方が公転より速い場合は自転を遅らせる方向に、自転の方が公転より遅い場合には自転を速める方向にモーメントが発生することがわかります。
これであれば、月の自転周期と公転周期が少しずつ一致していくことが説明できます。
月の自転と公転の周期が一致する理由の説明としては王道ではないでしょうか? ただこれだけでは言葉たらずな気がします。
潮汐力による変形は遅れるのか
この説明は、潮汐力による変形が遅れることを前提としています。では、本当に変形の遅れが生じるのでしょうか?
遅れるとしても、遅れすぎて90°以上傾く(そうなると逆方向のモーメントが発生する)ことはないと言えるのでしょうか?
変形が遅れることによって、(地球の方向に対して)長軸が、0°より大きく、90°より小さい角度になることを示さなければなりません。
時間反転してみる
変形が遅れるとした状態を時間反転してみます。
月の公転と自転の模式図を書いてみました。目印として月にオレンジの点を書いていますが、これが月の同じ個所(自転によって回転してます)です。
どの時点でも変形が遅れる間に公転が進み、長軸方向と地球の向きがずれています。
これを時間反転してみましょう。
時間を反転したのですから、自転も公転も逆回りになります。でも、長軸と地球の方向のずれる方向は時間反転しても変わりません。
これでは、変形が遅れるのではなく、力が働く前に先回りして変形しているようです。
もちろん、そんなことはあり得ません。
変形の遅れは、時間反転対称ではないのです。
時間反転対称性がない変化を求めていたので、その点では嬉しいですが、同時にひとつの結論が出ます。
”潮汐力による変形の遅れは、ニュートン力学では説明できない”
変形の遅れを当たり前のように導入するわけにはいきません。
月の変形を弾性変形だとした場合
月がどのようにして変形するのか考えていきます。
月は固体なので、一般的には弾性体と考えることができます。
弾性体とは、働いた力と変形量が比例する物体です。力学ではバネをモデルとして扱われることが多いものです。
月を弾性体と考えてみましょう。
潮汐力によって引き延ばすような力が働くと、それに比例して変形します。このとき、外から働いた力と元の形に戻ろうとする力が釣り合います。
働いた力と変形量が比例するのですから、一番大きな力がかかったときに一番大きく変形します。
引き延ばそうとする力が大きいところで、一番大きく引き伸ばされるのですから、変形は遅れることはありません。
慣性を考えてみる
力が働いたときの変化は弾性変化だけではありません。
ニュートンの方程式 F=ma2による加速があります。
力が働くと、その方向に加速度が働きます。この加速に使われる力を慣性力と呼ぶこともあります(ダランベールの原理)。
力が働いて変化するのは加速度ですから、力が一番強い場所を過ぎてもまだその方向に動こうとします。
変形が遅れるということです。これが求めていた変形の遅れなのか! と思われます。
でも残念なことがあります。
慣性による変形の遅れは90°になってしまいます。
90°ずれている場合は、短軸方向が地球を向いているのでモーメントは働きません。
弾性力と慣性力では説明できない
弾性力と慣性力の両方が働き、その合計が潮汐力と釣り合うと考えましょう。
弾性力では長軸が地球を向くように変形し、慣性力では短軸が地球を向くように変形します。
これを足し合わせても変形が斜めになることはありません。
弾性力と慣性力のどちらの効果が大きいかで、短軸と長軸のどちらが地球を向くか変わるだけです。
考えてみれば当たり前です。
両方ともニュートン力学の範囲なので、ニュートン力学では説明できない変形の傾きが導けるはずはありません。
粘性を考慮に入れる
”物性でみる固体と液体 何もかも固体と液体のあいのこ?”という記事でも説明しましたが、完全な弾性体というものは存在せず、程度の差はありますが「粘性」という液体の性質を持っています。
粘性では、変形速度と力が比例します。
風呂をかき混ぜるとき、速く動かすほど力がいるのがその例です。
力が変形量に比例してる(弾性力)とだめ、加速度に比例してる(慣性力)とだめ、それなら速度に比例する場合はどうでしょう。
この場合は45°ずれます。
「変形が遅れて斜めになる」待ちに待った結果です。
0°の弾性変形、90°の慣性変形、45°の粘性変形、この3つがどのような割合で働くかによって、0°~90°の間で傾きが変化します。
粘性を考慮することで、変形の遅れが説明でき、90°以上遅れることがないことまで説明できるのです。
最初に「これまで使ってきた力学(ニュートン力学)は、時間反転に対して対称な理論です(力を保存力とした場合)」と注釈をつけました。
粘性では変形速度と力が比例すると説明しましたが、速度によって変わる力は保存力ではありません。
元々のニュートンの理論では力は保存力に限らないのですが、一般には力を保存力として理論展開されることが多くなんとなく力学といえば保存力を扱うものという風潮になっています。
月の自転と保存則
月を剛体とした時の説明で角運動量保存則の話をしました。
「潮汐力を考慮した位置エネルギーが一番低い状態」が安定という言葉も使いました。
でもエネルギーも保存します。
角運動量一定に保ったまま、エネルギーが低い状態になろうとしても、エネルギー保存則がある限り無理です。
そこで保存則について考えてみましょう。
月の自転とエネルギー保存則
まずはエネルギー保存則です。
ここで言うエネルギー保存則は、力学的エネルギー保存則と呼ばれるニュートン力学から導出されるもののことを差すことにします。
エネルギーは保存しますが、条件があります。ちょっと物理の授業を思い出しましょう。
「エネルギー保存則は摩擦のない理想的な状態で成り立つ」
そう習った記憶があるでしょう。
摩擦は速度に比例する力です(速く摩擦するほど力がいる)。
摩擦力や粘性力のように速度に比例する力は「非保存力」と呼ばれ、力学的エネルギー保存則には従いません。だからこそエネルギーが保存する保存力を扱うことが多いともいえます。
ただし、摩擦熱のように熱が発生するので、熱を考慮したもっと広い範囲のエネルギー保存則は守られています。
粘性力ももちろん、熱が発生する力(散逸力)です。
エネルギーが熱として散逸するからこそ、エネルギーが低い状態に変化できるのです。
この熱の散逸が時間反転非対称となる根本原因です。
角運動量保存則
角運動量保存則はどうでしょうか?
これは、必ず保存します。
運動が月の自転と公転だけなら、自転の角運動量と公転の角運動量も合計は保存します。
今は地球無視して月の運動だけを考えていますが、地球ー月系全体を考える時には地球が自転する角運動量も合わせて保存します。
他の天体の影響がなければ必ず成り立つのです(他の天体の影響があっても、その天体まで含めれば角運動量保存則は当然成立します。
保存則といえば、運動量保存則もありますが、角運動量保存則が成り立てば運動量保存則も成り立つので、今回は触れません。
剛体の説明で、月が球ではないと仮定して自転と公転の周期が一致したときが1番エネルギーが低いことを説明をしました。実は月が球だとしても、周期が一致した状態が安定です。
角運動量が一定になるように自転と公転を変化させたときに、エネルギーが極小になるのが自転と公転の周期が同じ場合なのです。
自転が遅くなると、自転の角運動量が小さくなり、その分公転の角運動量が大きくなります。すると地球と月の距離が離れ、公転のエネルギーが少し下がり、位置エネルギーが大きくなって……。ちょっと面倒ですが計算するとそういう答えが出ます。
熱を含めたエネルギー保存則
外部から力が加わることがない場合、角運動量保存則とエネルギー保存則によって軌道の変化は限られています。
それ以上に軌道を変えるには、力学的なエネルギーが熱に変わり、力学的エネルギー保存則を破らないといけません。その場合、力学的なエネルギーの減少分と熱になったエネルギーは一致します。
このような過程の代表例が、月が変形するときの粘性による発熱です。
惑星や衛星の内部は、変形による発熱のせいで高温で溶融していることもあります。
溶融したドロドロの状態では、粘性が高いため発熱も大きく、自転速度の変化も速くなります。
月は、かつてドロドロの溶融状態で、その時期に公転と自転の周期が一致したと考えられています。
最終的にどうなるのか?
宇宙に月と地球しかなく、他の天体からの影響がないとすてば、月は最終的にどのようになるのでしょうか?
角運動量保存則を保ったままエネルギーを失い、全エネルギーが一番小さくなる状態に落ち着くはずです。
その最終状態を考えてみましょう。
月の軌道はどうなるのか?
まずはこれまで通り、地球を無視して月だけを考えてみます。
月の軌道が一番低エネルギーにいなるのは、
- 軌道は完全な円軌道
- 公転と自転の周期が完全一致
この状態です。
公転と自転の周期が一致していない場合は、潮汐変形の遅れで、周期が一致するような力がかかります。
楕円軌道の場合は、月が地球に向けている面がふらついている(経度秤動)ので、それに応じた潮汐変形の遅れが発生します。そして円軌道になるような力がかかります。
こう考えても、円軌道で周期一致の状態に落ち着くという結果になりますが、どんな力が働くのかという過程を追っていった結果と、エネルギーで考えた結果は当然一致します。
結果を手っ取り早く知りたいのなら、エネルギーで考えた方が楽です。
軌道以外では、月の形状も変化します。
潮汐力がかかる方向が常に一緒なので、それに応じた形になっていきます(応力緩和と呼ばれる現象)。
月の重力と自転の遠心力と地球からの潮汐力、それらがバランスして1番エネルギーが小さい形に変化するのです。
これも弾性体では起きない、粘性項が関与した変形で、熱が散逸する一方通行の変化です。
月内部に密度が高い部分と低い部分があれば、密度の低いものが中心に集まるという変化も起こります。
全て熱の散逸を伴う変化だということがわかると思います。
月の軌道は、楕円から円に近づいていくと説明しましたが、実際には円から離れて楕円が偏平になっているようです。
他の天体の影響だとは思いますが、そのメカニズムははっきりしていないようです。
地球ー月を合わせた系ではどうなるか
地球も考慮したらどんな状態になるのでしょうか?
ここでは、地球の周りを月が公転すると考えてきましたが、実際には地球と月の共通重心を、月と地球が公転しています。
ですから、地球も月と同じように自転周期と公転周期が一致していきます。
その他の変化も月と全く一緒です。
その状態になるまで、とんでもないほどの時間がかかり、太陽系が消滅する前に達成できる可能性はほとんどありません。
そして、月の軌道は楕円から少しずつ円軌道に近づいていく……はずですが実際は楕円が扁平になっているそうです。他の天体の影響だとは思いますが、理由はわかってないそうです。