でんぷんは炭水化物の代表とも言える物質で、人間が活動するときの大事なエネルギー源です。
でんぷんは糖が沢山つながった「多糖類」と呼ばれる構造をしています。
でも多糖類といっても、構造によって様々なものがあります。
でんぷんを代表にして多糖類の形と特性の関係を見ていきたいと思います。
でんぷんとは?
でんぷんは、代表的な糖類であるブドウ糖が沢山つながってできています。
ブドウ糖はグルコースとも呼ばれ、上のような構造をしています。
そのブドウ糖が下のように沢山つながっているのがでんぷんです。
ブドウ糖からできた多糖類
ブドウ糖がつながってできる多糖類はでんぷんだけではありません。
別記事『セルロースとは? 生活に欠かせない植物が生んだ万能材料』で紹介したセルロースもでんぷんと同様にブドウ糖がつながってできています。
木材、紙、木綿、食物繊維などを構成している丈夫なセルロースと柔らかいでんぷんの構造がそっくりなのです。
セルロースの構造はこうです。
でんぷんの構造式と比べてみても、パッと見ただけでは違いがよくわかりません。
でんぷんとセルロースの違い
この二つの構造式をもう一度よく見てみましょう
■でんぷん
■セルロース
分子を連結しているO(酸素)の結合の向きに着目しましょう。
酸素の結合は曲がっています。
でんぷんは、曲がる方向が全て同じ(図では下に凸)なのに対し、セルロースは上下が互い違いに並んでいます。
違いはこれだけです。
この曲がりが電子レンジで食品が温まる理由です。
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でんぷんとセルロースの形の違い
デンプンとセルロースの違いは、酸素の曲がる方向だけでした。
でも、それだけで出来上がりの分子の形が大きく変わります。
図に示した分子式は、模擬的に直線状に並べただけで実際の形状を表したものではありません。
実際に曲がる方向を変えたときの形がどうなるか見てみましょう。
セルロース分子の形
形だけわかればいいので、ややこしい分子式は省いて酸素の結合の曲がる方向だけで形を表してみます。
まずはセルロースから。
セルロースは、曲がった結合の向きが互い違いなので、このような形になります。
ジグザグを繰り返しながら、まっすぐ伸びていきます。
でんぷん分子の形
でんぷんは、曲がる向きが全部一緒でした。
それを順番に並べていくと、丸まってしまいます。
環になってしまえば、それ以上分子が並んでいくことができません。
でんぷんの分子は、環にならないように少しずれてバネのようならせん状に伸びていきます。
セルロースが丈夫な理由
セルロースはジグザクを繰り返して直線状に並びます。
そのため、隣の分子と接近してち密な構造を採ることができます(ジグザクの位置まで揃えて並びます)。
そして隣の分子との間に水素結合という力が働くので、丈夫になるのです。
詳細は別記事『セルロースとは? 生活に欠かせない植物が生んだ万能材料』に書いてありますので、ここでは省きます。
でんぷんはらせん状なので、隣の分子との間に隙間ができますし、水素結合も働かないのでセルロースのように丈夫にはなりません。
※でんぷんの場合は水素結合が他の分子とではなく分子内で働きます(らせんの隣り合った部分との間に働く)。
でんぷんもセルロースも同じブドウ糖がつながってできていますが、つながり方が違うので性質が全く異なるのです。
でんぷんもセルロースも炭水化物
でんぷんは炭水化物の一種です。となると構成元素が全く同じセルロースも炭水化物ということになります。
炭水化物は糖類と食物繊維に分けることができます。でんぷんは糖類、セルロースは食物繊維ですね。
一般には炭水化物と言えば糖類を指すことが多いのですが食物繊維も炭水化物に分類されるのです。
食品の成分表示を見ると「炭水化物○○g(食物繊維を除く)」とか「炭水化物○○g(食物繊維○g)」というように表示されている場合があります。
分解されてブドウ糖になる?
セルロースはブドウ糖がつながっているのですが、頑丈なのでブドウ糖に分解しにくいという特徴があります。
人間を含めてほとんどの動物はセルロースをブドウ糖に分解できません。
腸内細菌の中にはセルロースを分解するもがもあり、その力を借りてごく一部が体内に吸収されるくらいです。
食品中に含まれていても、ほとんど分解して吸収されないので「セルロースは食物繊維」に分類されます。
でんぷんはブドウ糖に分解されてエネルギー源になるので「でんぷんは糖分」です。
ナタデココはセルロースなので食物繊維、タピオカはでんぷんなので糖質、同じブドウ糖からできた物質でも、食感も摂取したときの働きも全く違うのです。
α-グルコースとβ-グルコース
グルコース(ブドウ糖)には、端の酸素の方向が同じα-グルコースと、酸素の方向が反対向きのβ-グルコースがあります。
でんぷんはα-グルコースがつながったもの、セルロースはβ-グルコースがつながったものと考えることができます。
水に溶けた状態では、α-グルコースとβ-グルコースが互いに移り変わり、α-グルコース38%、β-グルコース62%で平衡になっています。
食品や飲料に含まれているときも体内にいるときもグルコースは水に溶けた状態なので、α-グルコース、β-グルコースと分けずに、ブドウ糖と呼ぶことが多いのです。
でんぷんの特性の違い
一口にでんぷんと言っても、種類によって性質が少しずつ違います。
片栗粉とコーンスターチは両方ともでんぷんですが、性質が違います。
小麦粉や米粉なども主成分はでんぷんです。
このように同じでんぷんでも特性が違う理由は主にふたつあります。
- 長さ
- 枝分かれ
です。
グルコースがコイル状に長く伸びているのは同じでも、長くつながっているか、短いかで性質が変わります。
また途中で枝分かれすることもあり、枝分かれが多いか少ないかでも性質が大きく違ってきます。
特に枝分かれが多いものは、アミロペクチンと呼ばれ通常のでんぷんと違って熱水に溶けないという性質があります。
ブドウ糖という同じブロックを使って組み立てても、出来上がった形によってセルロースになったり、でんぷんになったり、同じでんぷんだとしても性質が大きく変わったりするのです。
動物が作るグリコーゲン
でんぷん、アミロペクチンは植物が作るもので、私たちはそれをブドウ糖に分解して摂取します。
ブドウ糖に似たものとして、グリコーゲンがあります。
グリコーゲンは、動物がエネルギー(ブドウ糖)を一時的に蓄えるために合成するもので、基本的にはでんぷんと似ています。
しかし、とにかく枝分かれが多くて、網の目のような構造をしています。
エネルギー源として、グルコースをつなげて蓄えるのは同じでも、植物と動物ではその構造はかなり違ったものになるのです。