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シラードのエンジンとは? 情報をエネルギーに変えることができるのか

エンジン

シラードのエンジンとは、分子の存在を観測して、その結果に応じて操作を変えることでエネルギーを取り出すものです。

「マクスウェルの悪魔」と呼ばれる物理学の問題を端的に表現したもので、シラードのエンジンの考察によって、マクスウェルの悪魔の研究が進み、解決の糸口にもなりました。

今回は、このシラードのエンジンについて説明してみます。

目次

シラードのエンジンとはどんなものか

シラードのエンジンは分子ひとつを使った装置です。

一定の温度の場所に設置された仕切りのある箱の中に分子(理想気体)がひとつだけ入っているとします。

そこから次の操作を行うのがシラードエンジンです。

  1. 箱の真ん中に仕切りを入れる
  2. 分子が仕切りの右にあるか左にあるか測定する
  3. 右にあれば仕切りをゆっくり左に動かす
  4. 左にあれば仕切りをゆっくり右に動かす
  5. 仕切りが箱の端に到達したら、仕切りを外す
Szilard's engine

分子が右にある場合、右側には分子の圧力がかかり左側は真空です。

圧力の高い右側からピストンのように仕切りを押すので、エネルギー(仕事)を取り出すことができるのです。

このときのエネルギーは、最大でkTln2(k:ボルツマン定数、T:絶対温度)となります。

エネルギーの保存

気体が膨張するときは、熱を吸収します(断熱膨張では温度が下がる)。

シラードのエンジンは、一定温度の場所に設置しているので、温度が変化しないように周囲から熱を奪います。

エネルギーの保存を考えると、取り出したエネルギーkTln2と同じだけの熱を周囲から吸収することになります。

ですから、エネルギー保存測は破れていません。

第二種永久機関

エネルギー保存測を満たしている永久機関として第二種永久機関と呼ばれるものがあります。

一定温度の場所で熱を仕事に変えて、それ以外に何も変化を起こさないものが第二種永久機関です。

詳しくは別記事に書いてあるので参考にして下さい。

≫≫第二種永久機関とは何か? エネルギー保存則を破らない永久機関がある

シラードのエンジンは第二種永久機関のように思えますが、第二種永久機関は熱力学第二法則という物理の大原則に反しています。

マクスウェルの悪魔

第二種永久機関のように見えるものとして「マクスウェルの悪魔」があります。

≫≫マクスウェルの悪魔とは何か? わかりやすく簡単な説明に挑戦してみる

シラードのエンジンは、マクスウェルの悪魔を単純化したものです。

マクスウェルの悪魔は、分子の位置と速度を測定して、それに応じて扉を開け閉めするものでした。

シラードのエンジンは、分子が右にあるか左にあるか観測して仕切りをどちらに動かすのか決めるものです。

情報量

シラードのエンジンで必要な情報は「分子が右にあるか左にあるか」の2択です。

情報量でいえば、1ビットです。

1ビットの情報を知ることができれば、kTln2の仕事が取り出せるということです。

マクスウェルの悪魔より単純化したことで、定量的な議論ができるようになったのです。

ちなみに、シラードのエンジンに限らず、1ビットの情報から取り出せる仕事の最大値は、kTln2になることが知られています。

シラードエンジンからの結論

エンジン

マクスウェルの悪魔とは何か? わかりやすく簡単な説明に挑戦してみる』で、マクスウェルの悪魔の解決の道のりを説明しました。

それには単純なモデルである「シラードのエンジン」の考察が重要な役割を果たしました。

1ビットの情報から、最大kTln2の仕事を取り出せるのですが、そのためには1ビットの情報を一旦記憶する必要があります。

記憶させたデータを消去するときに、1ビットあたりkTln2の熱を発生させてプラスマイナスゼロになってしまうのです。

ですから、メモリーを消去しなければ、熱を仕事に変えることができることになります。

第二種永久機関は、一定温度のところから熱を仕事に変えてそれ以外には何も変化がないものを指します。

メモリーを消去せず情報を記憶させたままの場合は、メモリーに変化があるので、「それ以外には何も変化がない」を満たさないので第2種永久機関にはならないのです。

現在では、ブラウン運動のような揺らぎを利用して、情報を使って仕事を取り出す「マクスウェルの悪魔」の実験が実際に行われるようになっています。

≫≫ブラウン運動とは何なのか? アインシュタインは何を解決したのか?

レオ・シラードという人物

シラードのエンジンを考案した”レオ・シラード”は、ハンガリー生まれのアメリカのユダヤ系物理学者です。

シラードは、その科学的な業績以外に『アインシュタイン=シラードの手紙』の発案者として知られています。

1939年、ルーズベルト大統領へナチスドイツが原子爆弾の開発を進めていることを知らせ、マンハッタン計画のきっかけになったのが『アインシュタイン=シラードの手紙』です。

≫≫アインシュタインと原子爆弾の関係 原爆は相対性理論によるものなのか?

発案者はシラードでしたが、より影響力のあるアインシュタインの署名で送ったため『アインシュタイン=シラードの手紙』と呼ばれているのです。

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