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熱電対は永久機関になるのか? 熱電効果の説明と考察をわかりやすく

熱電対

熱電対は2種類の金属線を接合したもので、温度の測定によく使われています。

種類の違う金属を接合すると温度差によって電圧が発生するので、その電圧を測定することで温度がわかるという仕組みです。

電圧が発生するなら、それを利用して電気的にエネルギーを発生させることができます。

これって、一見永久機関になりそうな気がしませんか?

目次

熱電対の原理「ゼーベック効果」

金属線の両端に温度差があると電圧が発生する効果をゼーベック効果と呼びます。

1821年に、ドイツの物理学者 “トーマス・ゼーベック” が発見したことで、その名がつきました。

二種類の金属線を接合してループを作り、二か所の接合部の温度を変えるとループに電流が流れることを発見したのです(電流が流れると磁場が発生するのでそれを捉えました)。

温度差によって発生する電位差が違うため、温度を測定する熱電対として利用されています。

永久機関ではないのか?

2種類の金属をループ状につないで、2か所の接点を異なる場所に置いておくだけで、ゼーベック効果によって電流が流れ続けます。

理論的には、回路にLEDを組み込んで光を発生させ続けたり、モーターをつないで回し続けたり、バッテリーを充電させたりできます。

熱電対からエネルギー

上手くやれば、この図のようにゼーベック効果で発生した電圧を使って電力(電気的エネルギー)を取り出すことができるのです。

ゼーベック効果を使った発電は、実際に研究されています(金属ではなく半導体を使いますが)。

これは永久機関ではないのでしょうか?

エネルギー保存則は成り立っているのか

ゼーベック効果を使って電気エネルギーを発生させることができるのは間違いありません。

一見なにもないところから、エネルギーを生み出しているように思えます。

さて、エネルギー保存則はどうなっているのでしょう?

こんな単純なところにエネルギー保存則に反する現象があるのなら、エネルギー保存則が物理の大原則になっているはずはありません。

ゼーベック効果とエネルギー保存則

一見、何もないところからエネルギーが生まれるように見えるときに考えないといけないのが熱エネルギーです。

もし、発生させたエネルギーと同じだけ、熱を吸収していればエネルギー保存則は満たしているので(第一種)永久機関ではなくなります。

熱はあらゆるところに存在しているので、エネルギー源として意識しにくくて見過ごしがちです。

また、熱を発生する現象はよく目にしますが、熱を吸収することは少ないので「吸熱する」という発想が生まれにくいという背景もあります。

熱を吸収することはあるのか

とは言っても本当に、熱の吸収が起こるのでしょうか?

実はゼーベック効果で電流が流れるときに、熱が発生したり、熱を吸収したりする効果が実際に知られています。

それも2種類も。

このとき、熱の発生より吸収の方が多く、吸熱量と電気エネルギーが一致していればエネルギーは保存されます。

ペルチェ効果

ひとつ目は「ペルティエ効果」と呼ばれるものです。

2種類の金属を接合した部分に電流を流すと、熱が発生したり、熱を吸収したりするというもので、1834年に “ジャン=シャルル・ペルティエ” が発見しました。

ペルティエ効果

ある方向に電流を流したときに発熱すると、電流の向きを反対にすれば吸熱になります。

電流の方向で発熱、吸熱が入れ替わるのです。

トムソン効果

もうひとつは「トムソン効果」と呼ばれるものです。

温度が変化している金属線に電流を流すと熱が発生したり吸収したりするというもので、イギリスの有名な物理学者 “ウィリアム・トムソン(ケルビン卿)” が理論的に導き、その後確認されました。

トムソン効果

トムソン効果もペルティエ効果と同じように、電流の方向を変えると発熱と吸熱が切り替わります。

ゼーベック効果、ペルティエ効果、トムソン効果は、熱と電気が変換をするため「熱電効果」と呼ばれています。

発熱と吸熱の複合

熱電対システムに電流が流れたら、ペルティエ効果とトムソン効果のため、場所によって発熱したり吸熱したりすることになります。

この熱の出入りをトータルすると吸熱する方が多く、その吸熱量と得られる電気エネルギーが一致していればエネルギーは保存するのです。

※電流によって発生する熱といえば、電気ヒーターにも使われているジュール熱があります。
これは吸熱が起きない摩擦熱のようなものなので一旦置いておきます(電気抵抗を無視します)。

ゼーベック効果とペルティエ効果とトムソン効果

ここで電位差を発生するゼーベック効果と、熱の発生、吸収が起きるペルティエ効果とトムソン効果について少し詳しく見ていきましょう。

ゼーベック効果で発生する電圧

ゼーベック効果によって電圧が発生しますが、その電圧は2種類の金属の種類と両端の温度で決まります。

両端の温度差と発生する電圧の関係を次のように表します。

${V=S(T_h-T_l)}$

${V:電圧,S:ゼーベック係数,T_h:高温の温度,T_l:低温の温度}$

両端の温度差と発生する電圧との関係を表す係数をゼーベック係数(相対ゼーベック係数)と呼びます。

ペルティエ効果での吸熱

ペルティエ効果によって高温の接合部(右側)と低温の接合部(左側)でそれぞれ熱の出入りがあります。

金属Aから金属Bに電流$I$が流れた時に、時間当たりに吸収する熱量を${\small Q_p}$とすると、

${\small Q_p=\pi I}$

となり、比例定数${\small \pi}$をペルティエ係数と呼びます。

このペルティエ係数が温度によって変わるため、熱電対となるのです。

高温部でのペルティエ係数を$\pi_h$、低温部でのペルティエ係数を$\pi_l$と置きます。

高温部で金属AからBに電流が流れるとすると、低温部では金属BからAに電流が流れることになります。

今ペルティエ係数を金属AからBに流れる場合の吸熱量としたので、BからAに電流が流れる低温部での吸熱量は符号が変わって$-\pi_l$です。

高温部での吸熱量${Q_{ph}}=\pi_hI$、低温部での吸熱量${Q_{pl}}=-\pi_lI$となります。合計すると、

${Q_{ph}+Q_{pl}=(\pi_h-\pi_l)I}$

です。

ここでは吸熱量を${\small Q_p}$と置いているので、発熱の場合はマイナスの値になります(教科書によって符号は違うので注意してください)。

トムソン効果での吸熱

トムソン効果での吸熱も同じように考えることができます。

下の金属Aの温度変化箇所Aと、上の金属Bの温度変化箇所Bで、トムソン効果による熱の出入りがあります。

${\small Q_{tB}-Q_{tA}=(\mu_B-\mu_A)I}$

ペルティエ効果と同じように、両方の吸熱量を足し合わせればトムソン効果による吸熱量になります。

ここで$\mu_A$、$\mu_B$はAとBでのトムソン係数です。

ゼーベック効果とペルティエ効果の関係

電力

ここで、簡単にするためトムソン効果がない場合を考えましょう。

ちなみにゼーベック効果が温度によって変化しない場合はトムソン効果はゼロになり、金属ではこれに近いことが知られています。

ですからそれほど無謀な仮定ではありません。

エネルギー保存則を適用する

ここでゼーベック効果とペルティエ効果の関係をみるためにエネルギー保存則を適用してみましょう。

電流が流れるとジュール熱が発生してエネルギーロスになるのですが、ジュール熱の発生をゼロとした理想的な場合を考えてみます。

ここから少し計算してみますので、数式が嫌いな方はとばしてください。

ゼーベック効果で発生する電圧は${V=S(T_h-T_l)}$です。ここに電流$I$が流れたとすると電力$W$は、

${W=S(T_h-T_l)I}$

です。

これとペルティエ効果での吸熱量が等しければエネルギーが保存されていることになります。

${S(T_h-T_l)I}=(\pi_h-\pi_l)I$

が成り立つということです。

ここで、ゼーベック係数$S$が温度によって変わらないこと、高温部や低温部の温度が変わってもこの式が成り立つということを考慮すると、

$ST_h=\pi_h$

$ST_l=\pi_l$

となります。

$Q_{ph}=\pi_hI$、$Q_{pl}=-\pi_lI$なので、

$Q_{ph}=ST_hI$

$Q_{pl}=-ST_lI$

ゼーベック係数$S$も、温度$T$も、電流$I$も全てプラスの値なので、高温部の吸熱量$Q_{ph}$はプラス、低温部の吸熱量$Q_{pl}$はマイナス、つまり高温部では吸熱、低温部では発熱ということになります。

また$T_h>T_l$なので、高温部での吸熱量の方が低温部での発熱より大きいことがわかります。

つまり、高温部で吸熱し、その一部を低温部で発熱し、残りが電気エネルギーとなるのです。

高温で吸熱、低温で発熱

この高温部で吸熱、低温部で発熱、吸熱の方が大きくてそれをエネルギーとして取り出すというのはよくあることです。

火力(原子力も)発電では、高温の部分で水を蒸発させて蒸気に変えて、その蒸気の圧力でタービンを回します。そして低温(水冷)にして蒸気を水に戻して、また高温部に送るというサイクルで発電しています。

水が蒸気になる時は気化熱を周囲から吸収し、蒸気を水に戻す時には凝縮熱が発生します。

高温部で吸熱、低温部で発熱しているのです。高温部では吸熱するので高温を維持するために燃料を燃やし、低温部では発熱するので低温を維持するために冷却水を使います。

結局、熱電対発電も同じことだと言えます。

熱効率の計算

ここで、高温部での吸熱のうちどれだけが電気エネルギーとして取り出せるかという熱効率を計算してみます。

高温部での吸熱量は$ST_hI$、低温部での発熱量が$ST_hI$なので、高温部での吸熱量のうち低温部に熱として排出される割合は、

$$\frac{ST_lI}{ST_hI}=\frac{T_l}{T_h}$$

です。

高温部での吸熱量のうち低温部に熱として排出される分を差し引いた分が、取り出せる電気エネルギーなので、熱効率$\eta$は

$$\eta=1-\frac{T_l}{T_h}$$

となります。

これはジュール熱の発生などがない理想的な場合なので、これ以上熱効率を上げることのできない最高効率となります。

電流の向きを反対にするとどうなるか

ペルティエ効果もトムソン効果も電流の向きを反対にすると発熱と吸熱が入れ替わります。

先ほどの回路での吸熱があったのなら、逆向きに電流を流せば同じだけの発熱があることになります。

この場合は、ゼーベック効果で発生する電圧に逆らって電流を流さないといけないので、外部から電気的なエネルギーをあたえなければなりません。

これは電力を使って低温から高温に熱を移動するヒートポンプになります。ペルティエ素子とよばれ携帯用のクーラーなどの使われています。

≫≫ヒートポンプとは? エコキュートにも使われる省エネ技術の仕組み

熱力学第二法則を考慮してみる

エネルギー保存則が成り立っているからといって、永久機関と呼べないわけではありません。

実はエネルギー保存則を満たした第二種永久機関と呼ばれるものがあります。

≫≫第二種永久機関とは何か? エネルギー保存則を破らない永久機関がある

簡単に言えば、熱を自由に他のエネルギーに変える装置が第二種永久機関で、熱力学第二法則という法則で第二種永久機関は存在しないとされています。

今回の熱電対のシステムは、連続的に熱を電気エネルギーに変える装置ですが、熱力学で禁止されている第二種永久機関にはならないのか考えてみます。

熱を連続的に他のエネルギーに変える条件

熱を他のエネルギーに自由に変えることはできません。

機関と呼ぶことができるような連続的な装置で熱をエネルギー変換するには条件があります。

それはこのようなものです。

  1. 高温の場所と低温の場所があること
  2. 高温の場所から熱を吸収し、その一部をエネルギー変換して残りは低温の場所に放熱すること
  3. 吸収した熱のうちエネルギー変換できる割合には上限があること
  4. その上限は高温部と低温部の温度だけで決まっていること

高温部と低温部があって、高温から熱を奪って低温に放熱するので、高温部から低温部に熱が移動します。

そのため、高温部は温度を維持するために熱を与えなければいけませんし、低温部は熱を奪わないと温度が上がってしまします。

熱電対システムはこの条件を満たしています。

熱電対システムは熱力学第二法則も満たすのか

熱力学第二法則ではもっと厳しい条件があります。

高温部で吸収した熱量のうちエネルギーとして取り出せる熱効率$\eta$の上限が決まっているのです。その上限は、

$$\eta=1-\frac{T_l}{T_h}$$

熱電対発電システムの熱効率の上限とぴったり一致します。

カルノーサイクルと呼ばれるもの(≫カルノーサイクルとは? 効率最大の熱機関とその意味合い)や、理想的なスターリングエンジン(≫おすすめ科学玩具”スターリングエンジンキット”は大人もはまる)なども、最大効率${1-\frac{T_2}{T_1}}$です。

ゼーベック係数が温度によって変わる場合

熱電対システムが熱力学第二法則にぴったり合うといっても、ゼーベック係数が温度によって変わらず、トムソン効果がないという単純化した場合での結果に過ぎません。

ここで面倒なのはトムソン効果です。

ペルティエ効果は、高温部と低温部のふたつの温度だけ考えればよかったのですが、トムソン効果は温度が変化していく部分で発熱や吸熱をします。

かなり面倒なのです。

なので結果だけ書いておきます。

ゼーベック係数が温度によって変化する場合は、それだけでは熱力学第二法則を満たしません。

それを補って熱力学第二法則を満たすようにトムソン効果が発現するのです。

熱電効果の詳細

ゼーベック効果、ペルティエ効果、トムソン効果という熱電効果について説明しましたが、それらの効果がどのようにして発生しているのかメカニズム的なことに全く触れていません。

そういう説明を期待していた人には申し訳ありませんが、かなり込み入った話になるのでここでは割愛させてもらいます。

ただ、2種の金属を接合したときに電圧が発生すること、そこに電流を流すと発熱、吸熱が起こること(ペルティエ効果の一部)は、割合簡単なので、どこかで記事にしたいと思っています。

今回の記事は、熱電対からスタートしているので、金属を接合したときのに発生する電圧、電流を流した時の吸熱そのものではなく、それらの温度依存性がメインになり、その説明が難しいのです。

うまく説明するこ方法がみつかれば、記事にしたいのですが……

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熱電対

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