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化学反応の進む方向と速度 反応速度論の基礎

化学実験

このブログでは、化学の記事も書いていますが、よく考えれば化学反応そのものについて説明していません。

そこで、一度化学反応の基礎についての説明をしておこうと思います。

今後の記事の参考にもなるように、知っておくべきことだけに焦点を当ててみます。

目次

化学反応とは?

化学反応は、化学物質が別の化学物質へと変化することを指します。

化学物質は複数の原子が結合していますが、その結合が切れたり、他の原子を再結合したりして、原子の結合状態が変わることが化学反応です。

化学反応を考える上で、「反応が起こる方向」と「反応する速度」のふたつにわけて考えると理解しやすいでしょう。

反応が起こる方向

簡単な反応を例にとってみましょう。

2H2+O2→2H2O

水素と酸素が反応して水ができるという反応です。

通常の条件ではこの反応が起こり、逆に水が水素と酸素になる反応は、電気分解など特別なことをしなければ起きません。

反応方向を決める要因1 安定

反応の方向についてよく言われるのが、どちらの方が安定かということです。

室温、1気圧という普通の条件で、水素と酸素に分かれている状態と、水になった状態を比べると水になった方が安定だから水が生成する反応が起こるという説明です。

もし水素と酸素に分かれた方が安定なら、逆方向への反応が進むはずです。

反応方向を決める要因2 エネルギー

これをエネルギーという観点から見てみましょう。

一般にエネルギーが低いほうが安定なので、水素と酸素に分かれているときのエネルギーより、水になったときのエネルギーの方が低いから水が生成する方向に進むということです。

安定性を別の言葉で言い換えただけですが、エネルギーというきちんと定義された言葉を使っているので表現が明確になります。

反応方向を決める要因3 反応熱

エネルギー保存則があるので、エネルギーは保存されます。

エネルギーが高い状態から低い状態に化学反応が起きたなら、その分のエネルギーがどこかで発生しているということです。

そのエネルギーは、通常は熱として周囲に放出されます。

ちなみに1モルの水が生成するときには、約70カロリーの熱が放出されます。

酸素と水素の状態でいるより、水の方が70カロリー分エネルギーが低いので水が生成することになります。

吸熱反応

ここまでは、よくある説明です。

でもここで疑問が浮かびます。

世の中には吸熱反応というものがあるのです。

身近な例でいえば、炭酸水素ナトリウム(重曹)の熱分解が吸熱反応です。

炭酸水素ナトリウム→炭酸ナトリウム+水+二酸化炭素

熱分解反応には吸熱反応が多くあります。

今までのエネルギーの話からすると、吸熱反応の方向が説明できません。

反応方向を決める要因4 エントロピー

実は、反応は「エネルギーが低い方向に進む」というのは間違いなのです。

物事が変化する方向は、エントロピーと言われるもので決まるので、エントロピーが大きくなる方向に進みます。

発熱反応でエネルギーが周囲に放出されると、周囲のエントロピーが大きくなるので全体としてエントロピーが大きくなることが多いのです。

その周囲のエントロピー変化より、反応した物質のエントロピー変化が大きければ、吸熱することもあり得るのです。

長くなるので、ここではエントロピーについての説明は省略します。

反応方向を決める要因5 自由エネルギー

反応の方向はエントロピーで決まりますが、エントロピーは注目している物質だけでなく、発熱や吸熱で起こる周囲の変化も考慮しなければならないので、ちょっとややこしくなります。

そこで、自由エネルギーというものがよく使います。

これは、反応する物質だけで、周囲の影響を考えなくても変化の方向が分かるものです。

「水素と酸素に分かれているときのエネルギーより、水になったときのエネルギーの方が低いので、水になる反応が進む」

という時の「エネルギー」が通常のエネルギーではなく「自由エネルギー」のことを指していることが多いのです。

この辺りが混同されていることが多いので、気を付けて下さい。

吸熱反応のイメージ

炭酸ナトリウムの分解を例に吸熱反応のイメージを説明してみます。
炭酸ナトリウムは熱によって、「炭酸ナトリウム」「水」「二酸化炭素」に分解します。
逆に炭酸ナトリウムが発生する反応は、「炭酸ナトリウム」「水」「二酸化炭素」この3つの物質が偶然衝突しなければ起こりません。
その可能性が低いので、炭酸ナトリウムの分解の方が優先されるのです。
こう考えると、熱分解反応に吸熱反応が多い理由もわかると思います。

反応の速度

化学反応

次に化学反応の速度について説明してみます。

吸熱反応の場合

吸熱反応では、反応によって分子のエネルギーが高くなります。

エネルギーは湧いて出ることはないので、その分のエネルギーが必要です。

分子は温度に応じて熱運動をしていて、運動エネルギーを持っています。

その運動エネルギーが反応のエネルギーに変化するのです。

ですから、反応するだけの運動エネルギーを持っている分子だけが反応できるのです。

吸熱反応

温度が高くなると、分子の運動エネルギーが上がるので反応速度が大きくなります。

活性化エネルギー

次に一般の化学反応を考えてみます。

発熱反応では、分子のエネルギーは低くなるので、その分の余分なエネルギーは必要ありません。

問題なのは、反応の途中段階です。

水素と酸素から水ができるとしても、一気に変化するわけではなく、その中間の状態があります。

水素分子の結合や酸素分子の結合が切れて、水に結合し直すのですから、途中に分子の結合が切れた状態を通らなくてはいけません。

この途中段階のエネルギーが高いのです。

分子がその途中段階のエネルギーを乗り越えるだけのエネルギーを持っていなければ反応できないのです。

水素と酸素を混ぜて、室温に置いておいても水になることはありません。

これは、途中段階を乗り越えるだけのエネルギーを持った分子がほとんどいないので、反応が進まないのです。

ですから熱を加えて燃やせば、高温になって分子のエネルギーが上がり、一気に水になるのです。

反応速度の速さは、この途中段階のエネルギーによって決まります。

それを活性化エネルギーと呼びます。

活性化エネルギー

一見反応が起こらないようなものでも、絶対に反応しない場合と反応速度が極端に遅いだけという場合があるので、注意が必要です。

反応は活性化エネルギー以上のエネルギーを持った分子だけが起こすことができます。温度を上げるほど高いエネルギーを持った分子が増えるため、反応速度は早くなります。

ここで温度と分子のエネルギー分布の関係は、ボルツマン分布に従います。

≫≫ボルツマン分布とは? 分子のエネルギーと温度の関係をわかりやすく解説

触媒

自分自身は変化せず、反応の速度を速める「触媒」と呼ばれるものがあります。

水素と酸素の反応では、銅を入れると触媒になって反応速度が上がります。

このとき、まず銅と酸素が反応して酸化銅が生成します。

そして酸化銅と水素が反応して、水と銅になるという反応が起きるのです。

銅は最終的にはもとに戻りますが、途中段階で反応に関与して経路を変えることで、活性化エネルギーが高い状態をとらずに反応できるようにしているのです。

言ってみれば、活性化エネルギーの山に迂回ルートを作ることで山を越えなくてもいいようにするのが触媒です。

生体内では、酵素が触媒として働いてきます。

酸化反応の場合

水素と酸素の反応は、水素の酸化反応です。

酸素が反応する酸化反応は、エネルギーが非常に低い状態になることが多く、自由エネルギーも低くなるので、酸化が進む方向に反応します。

しかし、通常は活性化エネルギーが非常に高く、反応はほとんど進みません。

しかし、触媒作用を持つものがあれば、酸化は速やかに進みます。

光触媒は、光を吸収することで、酸化反応の触媒になります。

これが光触媒で汚れや匂いウィルスや細菌を酸化分解する仕組みです。

また、体内の活性酸素も、触媒反応(酵素)でできる途中段階の物質で、酸化を進める効果があります。

このように酸化反応の速度を速めるのが光触媒や活性酸素なのです。

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