力をかけて変形させると電圧を発生する、逆に電圧をかけると変形する、そのような不思議な性質を持った物質があります。これを圧電体といいます。
この圧電体を使った素子が圧電素子またはピエゾ素子(英語のpiezoelectric elementからとった呼び方)と呼ばれるものです。
圧電素子は私たちの身近なところでも幅広く使われています。ここでは圧電素子についてわかりやすく解説していきたいと思います。
圧電効果の発見と歴史
圧電効果に関連する現象として最初に発見されたのは、温度変化によって電圧を発生する集電効果という現象です。
圧電効果は力を加えると電圧を発生するもので温度変化とは関係ないと思われるかもしてませんが、圧電体は必ず集電効果も示すといった切っても切り離せないものです。
集電効果は、1756年にドイツの物理学者フランツ・エピヌスによって確認されました。そこから圧電効果のような現象が予言されましたが、実験的に検出することはなかなかできませんでした。
圧電効果を証明する実験は、ピエール・キュリーとジャック・キュリーの兄弟が、1880年に行った公開実験が最初だと言われています。
ちなみにピエール・キュリーは、キュリー夫人ことマリ・キュリーの夫で、1903年にノーベル物理学賞を受賞したフランスの有名な物理学者です。
圧電効果を示す物質は数多くあり、水晶、トルマリン、トパーズなどの天然鉱物から木材や砂糖など身近なものまで多岐にわたります。
もちろん、人工的に圧電効果が高い物質を作る研究も活発に行われています。
圧電効果の原理
圧電効果の原理を簡単に説明したいと思います。
結晶は原子が規則正しく整列した構造をしています。原子はプラスの電荷を持った原子核の周りをマイナスの電荷を持った電子が囲んでいるものです。
原子の種類によって電子を引き付ける作用が違うため電子を強く引き付ける原子はマイナス、電子を引き付ける作用が小さい原子はプラスに電荷が偏っています。
結晶全体でみるとプラスとマイナスは釣り合っているのですがミクロでみるとプラスに帯電している部分とマイナスに帯電している部分が規則正しく並んでいるのです。
ここに力を加えて変形させると、プラスとマイナスの整列状態が変化して電圧を生じます。
逆に電圧をかけると、その電場で安定な配列に変化しようとして変形するという原理です。
わかりやすさ重視で正確性を欠く部分もありますが、以上が圧電効果の原理です。
なお全ての結晶が圧電効果を示す訳ではなく、結晶の配列の仕方によって圧電効果を示すかどうかが決まります。
このような圧電効果を示す圧電体を電極で挟んだものが圧電素子です。
圧電素子の身近な応用例
圧電素子は様々な用途で使用されていますが、ここでは身近な応用例を紹介します。
ライターなどの点火装置
最も身近な圧電素子の応用例はライターでしょう。
点火のボタンをカチッと押すと放電が起こりそれによってガスに引火させるタイプのライターです。
同様にガスコンロの点火にも使われています。
インクジェットプリンター
インクジェットプリンターにも圧電素子が使われているものがあります。ピエゾ方式と呼ばれるものです。印刷用のインクを吹き出す部分に圧電素子を使い、電圧をかけることで変形させ、その力でインクを吹き出すという原理です。
以前は多くのプリンターで使われていた技術ですが、現在家庭用インクジェットプリンターにピエゾ方式を採用している主要メーカーはセイコーエプソンだけです。
圧電スピーカー
電圧をかけると変形するという性質を利用して、周期的な電圧を付加することによって圧電素子を振動させ、それによって音を発生させることができます。
単純な構造で省電力なスピーカーとなりますが、音質はお世辞にも良いとは言えないため、音質にこだわらない電子ブザーなどに使われています。
クォーツ時計
クォーツ時計に使われる水晶振動子も圧電効果を利用したものです。
ただし、水晶振動子は圧電素子に含めないことも多いようです。
その他の応用
圧電素子のその他の応用例としては振動センサーやアクチュエータなどがあります。
振動センサーは振動による変形を電気信号として取り出すもので、アクチュエーターは電気信号による変形を利用するものです。
面白い用途としては、圧電素子による発電があります。圧電素子を敷き詰めた床の上を人が歩くことで発電する「発電床」などが開発されています。
大きな電力は得られませんが、何らかの力がかかる場所に圧電素子を設置すると発電ができるので、色々な応用が考えられています。