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磁気冷却効果とは? 冷房・冷蔵・冷凍を大きく変える技術

冷却

最近、磁気冷却効果という現象を利用したエアコンや冷蔵庫が注目を集めています。

ダイキンは2030年を目途にこの磁気冷却効果を使ったエアコンの実用化を目指すことを発表しています。

磁気冷却効果とは何か、なぜ今注目されているのか、未来の冷却装置の世界をのぞいてみましょう。

目次

磁気冷却効果とは?

磁気冷却効果は文字通り磁気を利用して冷却する効果です。

鉄などの磁性体に磁石を近づけた状態から磁石を遠ざけると吸熱して温度が下がるという現象です。

磁気冷却効果の歴史

磁気冷却効果は1881年にドイツのEmil Warburgよって発見された現象です。

磁石を近づけて常磁性体(鉄など磁石にくっつくもの)に磁場をかけた状態から、磁石を遠ざけて磁場をとくと冷却されるというものです。

また、電磁石に電気を流した状態から電気をストップすることでも磁場が変化するため同じ現象が起きます。

逆に磁場のない状態から磁場をかけると発熱します。

磁場のオンオフの実験

常磁性体に磁場をかけたり磁場をといたりする実験というと、別記事で紹介したアインシュタイン-ドハースの実験と同じですね。
磁場のオンオフによって回転するという実験です。磁場の変化によって様々な現象が誘発されるのが興味深いです。

磁気冷却効果で吸熱する理由

別記事 ”あの理論物理学者が実験? アインシュタイン-ドハースの実験とは” にも書いたように常磁性体では電子のスピンによって、原子が小さな磁石のようになっています。

ですから外部から磁場がかかると、N極はS極の方に、S極はN極の方に引きつられて整列します。これが鉄が磁石にくっつく理由です。

磁場の存在下で整列していたミクロな磁石が、磁場を外すとバラバラな向きになります。このとき吸熱するのです。

磁気冷却効果については、磁石の向きがそろった状態からバラバラな状態になる現象はエントロピーが大きくなるため吸熱すると説明されることが多いようです。

もちろん、正解なのですが、ちょっと違う観点から見てみます。

エネルギーで考える

外部の磁場によって磁石が向きをかえるのは、その方が位置エネルギーが低いからです。

そして磁場がなくなると位置エネルギーは大きくなります。

つまり磁場を除去することで、磁力による位置エネルギーが大きくなるのです。

エネルギーは保存するのでエネルギーが大きくなるためには、どこかからエネルギーととってこなければなりません。

それが熱エネルギーです。熱を吸収してエネルギーの高い状態になるということです。

ここで、エネルギーが高い状態に移るのはエントロピーが大きくなるから(エントロピーが大きくなる方向に変化する)なので、エントロピーが原因だというのも正解です。

エントロピーでの説明

可逆的に変化させたときの吸熱、発熱はエントロピー変化に温度をかけたものになります。
吸熱や発熱をエントロピーで扱うのは理論的に当然です。
ただ一般の方に説明するにはエネルギーで説明した方がわかりやすいかな? と思ってこういう説明にしました。
液体が気体になるときに吸熱するのは気体の方がエントロピーが大きいから、という説明は一般的にはしないような……。

なぜ今磁気冷却効果なのか?

磁気冷却効果の発見は1881年、今から150年以上前のことです。

磁気冷却効果は絶対零度に近い極低温を作り出すために使われていて目新しい技術でもりません。

その次期冷却効果なぜ今になって注目を浴びているのでしょうか?

磁気冷却効果の大きい材料

現在、磁気冷却効果が注目されている大きな理由は、磁気冷却効果が大きい材料が開発されてきていることです。磁気熱材料と呼ばれる効率のいい材料が次々に見つかっています。

それによって極低温という特別な世界ではなく、身近な家電に使われる可能性が高まってきているのです。

冷房、冷蔵の歴史

磁気冷却効果が注目されているのは、エアコンや冷蔵庫など身近な家電使われる可能性が高まってきているからです。

実は磁気冷却を使った家電の実用化は長年の夢といっていいほど期待が大きいのです。

期待が大きい理由は、エアコンや冷蔵庫など冷却するための家電の歴史が深くかかわっています。

初期の冷却装置

冷蔵庫もエアコンも原理は同じものです。まとめて冷却装置とでも呼びましょう。

冷却装置の原理は、冷媒と呼ばれる物質を液体から気体へ、気体から液体へと変化させるというものです。

液体が気体になるときには蒸発熱を奪います。それによって冷却します。

そして、エアコンなら室外機、冷蔵庫なら裏にある放熱板のところで気体を液体に戻します。

このとき凝縮熱で発熱するため、冷却したい室内や冷蔵庫内ではない場所で凝縮させるのです。

このように蒸発や凝縮をさせて熱を移動させる媒体を冷媒と言いますが、初期の冷蔵庫の冷媒にはアンモニアや塩化メチル、二酸化硫黄などが使われていました。

非常に毒性の高い物質です。

これらの冷媒の漏洩によって悲惨な事故が多発しました。

フロンを使った冷却装置

初期の冷蔵庫は非常に危険だったため安全性の高い冷媒が求められていました。

そこで発明されたのがフロンです。

フロンの開発については”世界で一番地球環境を破壊した男? トマス・ミジリーの功と罪”という記事で説明していますので興味がある方は読んでみてください。

フロンの発明によって冷蔵庫が家庭にも広がり、エアコンも家庭で使われるようになったのです。

安全性が高いフロンでしたが、意外な欠点がありました。

オゾン層の破壊です。

こちらも別記事で詳しく説明していますので、興味のある方はぜひ見てください。

≫≫フロンとは何か? オゾン層を破壊した夢の化学物質

代替フロン

オゾン層を破壊するフロンの使用は禁止されたため、フロンに替わる新しい冷媒が使われるようになりました。

代替フロンと呼ばれる物質です。

安全性も高くオゾン層もほとんど破壊しないという理想の溶媒のように思われました。

しかし代替フロンにも大きな欠点があります。

温室効果です。

代替フロンは温室効果ガスとして地球温暖化の原因になるものだったのです。

二酸化炭素よりもはるかに強い温室効果を示すのです。

≫≫温室効果ガスとは? 二酸化炭素以外にも地球温暖化の原因になる気体がある

現在ではそれに代わる冷媒はなく、大気への放出をできるだけ避けるように規制をするしか手がない状態です。

そろそろ冷媒を使った冷却から離れないといけない時期に来ているのです。

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